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第一章 砂羅万編
第22話 白伝
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「あぁ、もう、本当にありがとう! まさか私が喋れるようになるなんてね! これで、餌のことも寝床のことも交渉できるってことじゃない? うっそ! ほんと? 嬉しい!!! できればね、ミミズばっかりの粗食とかじゃなくて、もうちょっと高級なのがいいのよ。でもね、私ってレディーじゃない? だからあんまり太っても飛びにくくなっちゃうし、程よくヘルシーなのが良いのよね。寝床も天幕の軒下とか、あんなところ嫌なのよ。専用の止まり木だって用意してほしいわ。だって、私は世界初の喋れる鳥なんだもの! ちょっと特別待遇してくれても良いと思うのよね。だって、仕事?したりするんだし。普通鳥なんてね、こんなに簡単に人に飼いならされたりしないものなのよ? ちゃんと感謝してよね。でも安心して。私は賢い鳩だから。ご主人様の言いつけは、それなりに守ってあげる。だからお願い!うるさいから喋れない鳥に戻すとか言わないでーーー!!!」
杜夜世は、長い溜息を吐いた。
「……トヨ、ごめんな」
塁湖は、杜夜世に詫びた。宴での根治苦症騒ぎの時でさえ謝らなかった塁湖が謝ったのので、杜夜世は驚いてブンブン首を横に振った。
「まさか、こんな鳥だなんて、誰にも分からなかったと思う」
「でも、完全に人選ミスよね」
「私は鳩! 鳥選よ!」
『白伝』と名付けられた鳩は、杜夜世の肩に止まると、甲高い声で口を挟んだ。
杜夜世と塁湖は、文通をするために、一座に居ついていた白い鳥を伝書鳩にしようとしていたのだ。まずは杜夜世の薬を使って喋れるようにして、2人の間を行き来して手紙を運んでほしいことを伝えようとしていた。しかし、思いのほか、よく喋る鳩で、こんなはずではなかった感が著しい。
杜夜世は、支払いが完了し、いよいよ海烈の一座を去る準備をしていたのだった。翌日からは府長の屋敷に世話になるため、一座でせねばならないことは本日中に済ませておかなければならない。
「杜夜世、お願いがあるのだけど……」
流星は、支払いが済んで一座の天幕に戻ってきた途端、羽馬に戻ってしまった。また服を駄目にしたのは言うまでもない。杜夜世は、あの大男の前で姿が変化しなくて良かったと心から思った。府長は、流星の珍しい特徴を知って一瞬欲を出したものの、踏みとどまってくれた。しかし、あの大男であれば、何をするか分かったものではない。今後、軍学校に入るにあたり、この『変身』を制御できないことは大きな問題となる可能性が高いだろう。そう思うと、杜夜世はこの先が思いやられて、気が遠くなりそうになるのだった。
「なぁに?」
けれど、杜夜世は、流星を厄介者だとは思っていない。もはや彼は、杜夜世のパートナーだ。運命共同体である。だから、パートナーの疑問やお願いには、できる限り応えたい。
「明日からも毎日、人間に戻してくれないかなぁ?」
「どうして?」
「影水に料理を習いたいんだ」
「いいけど……なんでまた……」
「杜夜世に美味しいものを食べさせてあげたい」
毎日人間に戻し、かつ長時間人間の姿を保つためには、杜夜世との濃厚接触が必要となる。杜夜世は、一瞬自分の顔が引きつるのを感じたが、なんとか取り繕った。流星の目が真剣だった上、美味しいものという単語は魅力的だったからだ。
「長時間は無理かもしれないよ。半日ぐらいしかもたないかもしれないわ」
「それで十分! 杜夜世、ありがとう!!」
流星は、羽をわさわさと広げたり閉じたりして、その喜びを表現した。羽の動作で起こった風は、杜夜世のスカートがふわりと舞い上げる。杜夜世は慌ててそれを両手で押さえた。
「やっぱりやめようかな」
杜夜世はそう呟いたが、その時には、流星は影水のいる天幕の方へ駆け出していた。
「トヨ、馬と付き合うってどんな感じなん?」
「まだよく分からないわ」
「傍目で見てる分には面白いから、また教えてな」
他人事の塁湖は、ニヤニヤしていた。実際は、馬だからではなく、流星だから面白いのである。杜夜世は、流星が面白いだけでなく、自分のことをいつも大切にしてくれることを力説しそうになったが、ノロケになるような気がして止めておいた。
「あ、実家にも手紙書かなきゃ」
* * *
翌日の朝、杜夜世と流星は、海烈に呼び出されていた。
「これを渡しておく。お前さんらは、まともな旅なんて初めてだろう? 困ったことがあれば、俺の名前を出して、こいつらに頼れば良い。きっと力になってくれるはずだ」
海烈は、杜夜世に1枚の紙を渡した。紙には、数人の名前と居場所が書かれていた。
「座長のお知り合いなのですか?」
「昔一緒に無茶やった仲間ってとこだな。俺が旅芸人率いることになって、解散したんだが、昔はこのメンバーで魔物狩りやって稼いでたんだ」
リストの中には、これから杜夜世が向かう砂漠に住む民も含まれていた。目的地、扇葉(せんよう)在住の者もいる。
「……ありがとうございます」
杜夜世は、海烈を見上げた。
「お前さんは、1人じゃない。リュウがいる。俺達がいる。これからもっとたくさんの仲間に出会う。忘れるな」
海烈は、杜夜世の頭をポンポンと叩いた。
杜夜世は、長い溜息を吐いた。
「……トヨ、ごめんな」
塁湖は、杜夜世に詫びた。宴での根治苦症騒ぎの時でさえ謝らなかった塁湖が謝ったのので、杜夜世は驚いてブンブン首を横に振った。
「まさか、こんな鳥だなんて、誰にも分からなかったと思う」
「でも、完全に人選ミスよね」
「私は鳩! 鳥選よ!」
『白伝』と名付けられた鳩は、杜夜世の肩に止まると、甲高い声で口を挟んだ。
杜夜世と塁湖は、文通をするために、一座に居ついていた白い鳥を伝書鳩にしようとしていたのだ。まずは杜夜世の薬を使って喋れるようにして、2人の間を行き来して手紙を運んでほしいことを伝えようとしていた。しかし、思いのほか、よく喋る鳩で、こんなはずではなかった感が著しい。
杜夜世は、支払いが完了し、いよいよ海烈の一座を去る準備をしていたのだった。翌日からは府長の屋敷に世話になるため、一座でせねばならないことは本日中に済ませておかなければならない。
「杜夜世、お願いがあるのだけど……」
流星は、支払いが済んで一座の天幕に戻ってきた途端、羽馬に戻ってしまった。また服を駄目にしたのは言うまでもない。杜夜世は、あの大男の前で姿が変化しなくて良かったと心から思った。府長は、流星の珍しい特徴を知って一瞬欲を出したものの、踏みとどまってくれた。しかし、あの大男であれば、何をするか分かったものではない。今後、軍学校に入るにあたり、この『変身』を制御できないことは大きな問題となる可能性が高いだろう。そう思うと、杜夜世はこの先が思いやられて、気が遠くなりそうになるのだった。
「なぁに?」
けれど、杜夜世は、流星を厄介者だとは思っていない。もはや彼は、杜夜世のパートナーだ。運命共同体である。だから、パートナーの疑問やお願いには、できる限り応えたい。
「明日からも毎日、人間に戻してくれないかなぁ?」
「どうして?」
「影水に料理を習いたいんだ」
「いいけど……なんでまた……」
「杜夜世に美味しいものを食べさせてあげたい」
毎日人間に戻し、かつ長時間人間の姿を保つためには、杜夜世との濃厚接触が必要となる。杜夜世は、一瞬自分の顔が引きつるのを感じたが、なんとか取り繕った。流星の目が真剣だった上、美味しいものという単語は魅力的だったからだ。
「長時間は無理かもしれないよ。半日ぐらいしかもたないかもしれないわ」
「それで十分! 杜夜世、ありがとう!!」
流星は、羽をわさわさと広げたり閉じたりして、その喜びを表現した。羽の動作で起こった風は、杜夜世のスカートがふわりと舞い上げる。杜夜世は慌ててそれを両手で押さえた。
「やっぱりやめようかな」
杜夜世はそう呟いたが、その時には、流星は影水のいる天幕の方へ駆け出していた。
「トヨ、馬と付き合うってどんな感じなん?」
「まだよく分からないわ」
「傍目で見てる分には面白いから、また教えてな」
他人事の塁湖は、ニヤニヤしていた。実際は、馬だからではなく、流星だから面白いのである。杜夜世は、流星が面白いだけでなく、自分のことをいつも大切にしてくれることを力説しそうになったが、ノロケになるような気がして止めておいた。
「あ、実家にも手紙書かなきゃ」
* * *
翌日の朝、杜夜世と流星は、海烈に呼び出されていた。
「これを渡しておく。お前さんらは、まともな旅なんて初めてだろう? 困ったことがあれば、俺の名前を出して、こいつらに頼れば良い。きっと力になってくれるはずだ」
海烈は、杜夜世に1枚の紙を渡した。紙には、数人の名前と居場所が書かれていた。
「座長のお知り合いなのですか?」
「昔一緒に無茶やった仲間ってとこだな。俺が旅芸人率いることになって、解散したんだが、昔はこのメンバーで魔物狩りやって稼いでたんだ」
リストの中には、これから杜夜世が向かう砂漠に住む民も含まれていた。目的地、扇葉(せんよう)在住の者もいる。
「……ありがとうございます」
杜夜世は、海烈を見上げた。
「お前さんは、1人じゃない。リュウがいる。俺達がいる。これからもっとたくさんの仲間に出会う。忘れるな」
海烈は、杜夜世の頭をポンポンと叩いた。
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