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63王子ですから
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「一つ確認させてください」
カケルはさらに石へ近づいてみる。石そのものは半透明で、中から発せられる光が赤く見せていることが分かった。石の中心に目を凝らす。あった。ごく小さな古代文字が浮かんでいて、一つの詩になっている。しかも、ほぼソラの礎の石と同じ内容だ。
「なぜ、こんなところに」
クレナ王家は、何をやっているのだろう。これ程大切なものを放置しているなんて、正気の沙汰ではない。それとも、まさかこの石の存在そのものに気づいていないということなのか。
「ねぇ、国の礎って何なのさ? やたら仰々しい名前じゃないか」
チヒロは、唖然とするカケルに話しかけてきた。
「チヒロ様は、建国記を読んだことはありますか?」
「あるわけないだろ。あたしを何だと思ってるんだ。村人様だよ?」
妙な方向性で威張り散らすチヒロに、カケルは苦笑で応える。
「すみません。私もクレナの建国記は読んだことがありませんが、ソラにはこういった話が伝わっています」
かつて、クレナとソラが建国した際、元の国の王宮にあった石を半分に割った。その石には神が宿っていて、護国の加護がある貴重な物だったためだ。この石がある限り、数多の神々の支援を取り付けて、国土と民を外敵から守ることができると言われている。
「そんなこと、本当にあるのかね」
チヒロの疑念は最もだが、建国以来、二国は他国からの侵略を受けたことが無いのは確かである。大陸の極東に位置するという地理的な優位点もあるだろうが、長い歴史でずっと同じ王朝が同じ土地を治め続けているのは、大変稀有なことなのだ。
側で一通りの説明を聞いていた老人は、長い溜め息をつく。
「それが真ならば、これからどうすれば良いのか。まずはコトリ様にこの石を見ていただくべきかの」
「コトリ?」
突然でてきた愛する人の名。カケルは敏感に反応する。
「そうだ。数日前になるが、夜、夢の中にルリ神が現れてな。コトリ姫をお守りするようにと仰せだった。どうも、このお告げは儂だけではなかったらしい。近くの別の村の神官も、同じ夢を見たそうだ」
チヒロもそうだそうだと頷く。
「それにコトリ様は、我々の旗頭になってくださっている。今、都でも、コトリ様に従うべく、たくさんの仲間が集まりつつあるよ。あの姫さんのシェンシャンは特別らしいからね。ミズキ曰く、姫さん本人も自分の奏でを民のために役立てようと考えてくれているらしいし、あたしは応援したいと思ってる」
コトリの名が使われていることは、少なからず掴んでいた。しかし、夢の話は初耳である。ルリ神が降りているシェンシャンは、今ヨロズ屋にあるが、なぜこの時期にあの神がそんな事をしたのだろうか。ルリ神と繋ぎをもった者としては、もっと詳細を知っておかねばならない。
「そのような夢は、よく見るのですか?」
カケルが尋ねると、老人はきっぱりと首を横に振った。
「これが初めてだな。……そうだ、夢だけではないぞ。その日の昼間、拝殿の火に美しい女子が映って、それは見事なシェンシャンの音が流れてきた。ついに神が、我々のような貧しい民のために、施しをしてくださったのかもしれぬ」
カケルは、以前コトリから聞いた話を思い出していた。楽師団遠征中は、社総本山に身を寄せるかもしれないと。そうだ、それだ。
「その美しい方は、コトリ様かもしれませんね」
全員が同じ結論に達した。
しかし、さすがは村の長と言おうか。チヒロは、カケルがさりげなく避けていた、ある話題に気づいてしまったのである。
「そりゃあそうと、あんた。なんで、あれが国の礎の石だと分かったんだい? 普通の商人に、そんな知識があるわけ無いだろう?」
やはり、言わねばならないか。
ここまでの大きな秘密を明かしてもらったのだ。しかも、当人達の想像を遥かに超える重大なもの。
チヒロ達には言わなかったが、おそらく礎の石が完全に破壊尽くされてしまうと、たちまち国中から神々の加護が消えて、あらゆる神具が使えなくなり、さらには国が消えることにもなるだろう。よくぞ今まで隠し通してきたものだ。
これに報いるには、カケルにとっても最大の秘め事を明かさねばなるまい。
カケルは、なるべく飾らない風を装って言った。
「なぜって、私は、ソラの王子ですから」
場は、水を打ったように静まり返った。
「でも、商人じゃ……」
チヒロは完全に混乱している様子だ。クレナで王族というと、王宮に籠もりきりで、大抵被り布をしているため顔も分からない。常に多くの共を連れ歩き、民のことなんて素知らぬフリという話が田舎には伝わっている。特に王と長男王子の噂は悪いものばかりだ。
なのに目の前の男ときたら、職人でありながら荒くれ者を瞬時に撃退できるばかりか、護衛も連れずに商売までしている。しかも、卑しい村人と気安く話までできるではないか。こんな王子、ありえるとは思えなかったのである。
カケルは穏やかに微笑んだ。
「私は神具師であり、商人であり、王子であり、そして……誰よりもコトリを愛している者です」
前半はともかく、明らかにおかしな自己紹介だった。老人など、可哀想なぐらいに狼狽している。
「コトリはいつか妻として娶りたいのですが、まだいくつもの手順を踏まねばなりません。故に、まだソウである私が王子であることは秘しておかねばなりません。くれぐれも……」
チヒロと老人は、壊れた人形のようにカクカクと首を縦に振っている。やはり田舎者である彼らには、王族という絶対的な権力者を目の前にしてしまうと、自然と平伏したくなるような心境になるのだ。
「ミズキ様にもですよ? 彼は口が軽そうなので」
「は、はい!」
「では、皆さんのご意思の通り、この礎の石はコトリにも見せねばなりません。けれど、彼女の立場上、ここへ足を運ぶ事はなかなかできないでしょう。ですから、ミズキ様の簪のように、石を少し削って私に預けていただきたい。いいですね?」
日頃は隠している王子としての風格を、全面的に開放する。二人が否とは言えず、地面に膝をついて頭を垂れるのを認めると、カケルはほっと息をついた。
「私は、これからソラの王宮へ向かうところでした。私が本当に王子だということは、ついて来れば分かるでしょう。コトリへの想いについても、弟達などが証明してくれると思います」
チヒロが顔をあげた。かなり怯えている。
「あの、あたしは本当について行っていいので? 何もできないかもしれない……」
「さっきの大口はどうしました? 大丈夫。私の身元を知ったからには、いろいろと働いてもらいますよ。まずは、あの石を少し削ってもらいましょうか。そうですね、拳大ぐらいでいいです」
後に、ゴスは言う。カケルは、望みを叶えるためならば手段を選ばぬあたり、下手な悪人よりも悪人である、と。
カケルは、気分がかなり高揚していた。
これで、クレナ国の礎の石を取り押さえることができる。これは、おそらくクレナ国王本人が知らぬ最大の弱点となるだろう。いずれ、良い手札となるはずだ。
そして、赤い石。神具師としては興味が尽きない材料だ。ソラの青い石は、さすがに手出しすることが許されないだけに、この赤い石を入手できたのは僥倖であった。
さて、どう料理してやろうか。コトリに見せると言っても、石そのままでなくとも良いだろう。やはり、神具という形にして手渡したいところ。
カケルは、今すぐにでも自分の工房に駆け戻って、籠もりたくなっていた。
石の削り出しを終えると、カケル達とチヒロは老人や村の男衆に別れを告げて、一路ソラへと向かう。チヒロはヨロズ屋の下女という体で関を通り、ソラへ入国。その後は、通過する村々で馬を替えながら、一直線に王宮へ向かった。
カケルはさらに石へ近づいてみる。石そのものは半透明で、中から発せられる光が赤く見せていることが分かった。石の中心に目を凝らす。あった。ごく小さな古代文字が浮かんでいて、一つの詩になっている。しかも、ほぼソラの礎の石と同じ内容だ。
「なぜ、こんなところに」
クレナ王家は、何をやっているのだろう。これ程大切なものを放置しているなんて、正気の沙汰ではない。それとも、まさかこの石の存在そのものに気づいていないということなのか。
「ねぇ、国の礎って何なのさ? やたら仰々しい名前じゃないか」
チヒロは、唖然とするカケルに話しかけてきた。
「チヒロ様は、建国記を読んだことはありますか?」
「あるわけないだろ。あたしを何だと思ってるんだ。村人様だよ?」
妙な方向性で威張り散らすチヒロに、カケルは苦笑で応える。
「すみません。私もクレナの建国記は読んだことがありませんが、ソラにはこういった話が伝わっています」
かつて、クレナとソラが建国した際、元の国の王宮にあった石を半分に割った。その石には神が宿っていて、護国の加護がある貴重な物だったためだ。この石がある限り、数多の神々の支援を取り付けて、国土と民を外敵から守ることができると言われている。
「そんなこと、本当にあるのかね」
チヒロの疑念は最もだが、建国以来、二国は他国からの侵略を受けたことが無いのは確かである。大陸の極東に位置するという地理的な優位点もあるだろうが、長い歴史でずっと同じ王朝が同じ土地を治め続けているのは、大変稀有なことなのだ。
側で一通りの説明を聞いていた老人は、長い溜め息をつく。
「それが真ならば、これからどうすれば良いのか。まずはコトリ様にこの石を見ていただくべきかの」
「コトリ?」
突然でてきた愛する人の名。カケルは敏感に反応する。
「そうだ。数日前になるが、夜、夢の中にルリ神が現れてな。コトリ姫をお守りするようにと仰せだった。どうも、このお告げは儂だけではなかったらしい。近くの別の村の神官も、同じ夢を見たそうだ」
チヒロもそうだそうだと頷く。
「それにコトリ様は、我々の旗頭になってくださっている。今、都でも、コトリ様に従うべく、たくさんの仲間が集まりつつあるよ。あの姫さんのシェンシャンは特別らしいからね。ミズキ曰く、姫さん本人も自分の奏でを民のために役立てようと考えてくれているらしいし、あたしは応援したいと思ってる」
コトリの名が使われていることは、少なからず掴んでいた。しかし、夢の話は初耳である。ルリ神が降りているシェンシャンは、今ヨロズ屋にあるが、なぜこの時期にあの神がそんな事をしたのだろうか。ルリ神と繋ぎをもった者としては、もっと詳細を知っておかねばならない。
「そのような夢は、よく見るのですか?」
カケルが尋ねると、老人はきっぱりと首を横に振った。
「これが初めてだな。……そうだ、夢だけではないぞ。その日の昼間、拝殿の火に美しい女子が映って、それは見事なシェンシャンの音が流れてきた。ついに神が、我々のような貧しい民のために、施しをしてくださったのかもしれぬ」
カケルは、以前コトリから聞いた話を思い出していた。楽師団遠征中は、社総本山に身を寄せるかもしれないと。そうだ、それだ。
「その美しい方は、コトリ様かもしれませんね」
全員が同じ結論に達した。
しかし、さすがは村の長と言おうか。チヒロは、カケルがさりげなく避けていた、ある話題に気づいてしまったのである。
「そりゃあそうと、あんた。なんで、あれが国の礎の石だと分かったんだい? 普通の商人に、そんな知識があるわけ無いだろう?」
やはり、言わねばならないか。
ここまでの大きな秘密を明かしてもらったのだ。しかも、当人達の想像を遥かに超える重大なもの。
チヒロ達には言わなかったが、おそらく礎の石が完全に破壊尽くされてしまうと、たちまち国中から神々の加護が消えて、あらゆる神具が使えなくなり、さらには国が消えることにもなるだろう。よくぞ今まで隠し通してきたものだ。
これに報いるには、カケルにとっても最大の秘め事を明かさねばなるまい。
カケルは、なるべく飾らない風を装って言った。
「なぜって、私は、ソラの王子ですから」
場は、水を打ったように静まり返った。
「でも、商人じゃ……」
チヒロは完全に混乱している様子だ。クレナで王族というと、王宮に籠もりきりで、大抵被り布をしているため顔も分からない。常に多くの共を連れ歩き、民のことなんて素知らぬフリという話が田舎には伝わっている。特に王と長男王子の噂は悪いものばかりだ。
なのに目の前の男ときたら、職人でありながら荒くれ者を瞬時に撃退できるばかりか、護衛も連れずに商売までしている。しかも、卑しい村人と気安く話までできるではないか。こんな王子、ありえるとは思えなかったのである。
カケルは穏やかに微笑んだ。
「私は神具師であり、商人であり、王子であり、そして……誰よりもコトリを愛している者です」
前半はともかく、明らかにおかしな自己紹介だった。老人など、可哀想なぐらいに狼狽している。
「コトリはいつか妻として娶りたいのですが、まだいくつもの手順を踏まねばなりません。故に、まだソウである私が王子であることは秘しておかねばなりません。くれぐれも……」
チヒロと老人は、壊れた人形のようにカクカクと首を縦に振っている。やはり田舎者である彼らには、王族という絶対的な権力者を目の前にしてしまうと、自然と平伏したくなるような心境になるのだ。
「ミズキ様にもですよ? 彼は口が軽そうなので」
「は、はい!」
「では、皆さんのご意思の通り、この礎の石はコトリにも見せねばなりません。けれど、彼女の立場上、ここへ足を運ぶ事はなかなかできないでしょう。ですから、ミズキ様の簪のように、石を少し削って私に預けていただきたい。いいですね?」
日頃は隠している王子としての風格を、全面的に開放する。二人が否とは言えず、地面に膝をついて頭を垂れるのを認めると、カケルはほっと息をついた。
「私は、これからソラの王宮へ向かうところでした。私が本当に王子だということは、ついて来れば分かるでしょう。コトリへの想いについても、弟達などが証明してくれると思います」
チヒロが顔をあげた。かなり怯えている。
「あの、あたしは本当について行っていいので? 何もできないかもしれない……」
「さっきの大口はどうしました? 大丈夫。私の身元を知ったからには、いろいろと働いてもらいますよ。まずは、あの石を少し削ってもらいましょうか。そうですね、拳大ぐらいでいいです」
後に、ゴスは言う。カケルは、望みを叶えるためならば手段を選ばぬあたり、下手な悪人よりも悪人である、と。
カケルは、気分がかなり高揚していた。
これで、クレナ国の礎の石を取り押さえることができる。これは、おそらくクレナ国王本人が知らぬ最大の弱点となるだろう。いずれ、良い手札となるはずだ。
そして、赤い石。神具師としては興味が尽きない材料だ。ソラの青い石は、さすがに手出しすることが許されないだけに、この赤い石を入手できたのは僥倖であった。
さて、どう料理してやろうか。コトリに見せると言っても、石そのままでなくとも良いだろう。やはり、神具という形にして手渡したいところ。
カケルは、今すぐにでも自分の工房に駆け戻って、籠もりたくなっていた。
石の削り出しを終えると、カケル達とチヒロは老人や村の男衆に別れを告げて、一路ソラへと向かう。チヒロはヨロズ屋の下女という体で関を通り、ソラへ入国。その後は、通過する村々で馬を替えながら、一直線に王宮へ向かった。
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