魔王でした。自分を殺した勇者な婚約者などお断りです。

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勇者なんかお断り!!14歳と半年

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リヨネッタ14歳と半年

 再び学園に戻ってきたリヨネッタはスティーブと実技テストと期末テストで喧嘩をしていた。
 実技テストの最中にハプニングがおきるも、2人で事件を解決したりもした。

「上に立ちたる者、弱い物を守ってこそ!」
「生徒1人守れず、民は守れない!」

 二人の息の合った行動は、監禁騒動による周囲の不安を払拭した。色々あったが、この件でさすが次期王と王妃!!と2人の評価は更にあがっていっていく。

(過去の経験でわかっていたが、人間は誰かの為になると著しく成長することがある。特に護衛にあたり散らしていたあの勇者も良い方に変わってきていたか…)

 この時のスティーブの事件解決の動きは、リヨネッタの中の泣き虫王子のイメージを覆すことになった。



 試験も高評価に終わり、スティーブの嫉妬もひいた一年を経て、やっとリヨネッタはアイーシャと再会が許さた。

「久しいなぇ…達者であったか?」
「急に自主退学してごめんね。びっくりしたでしょう?」
「そなたが元気なら良いのじゃ。気にするな」

 ガチガチに組まれた護衛が近くにいるが、2人は久しぶりのお茶会を楽しんでいた。2人が会えない間は共同開発は止まり、商品の流通のみにお互い力を入れるしかできていなかった。
 試作品作りをする合間を通して、2人は乙女ゲームの続きについて話をしていた。

「やっぱりリヨネッタはあの人と婚約やめた方が良いと思うの…」
「手紙でも行っておったな?何があった、酷いことをされたのかぇ…?」
「詳しいことは言えないけど、ゲーム内より第一王子殿下がやばい人だったわ…あたし自身は無事よ?うん…」
「ふむ、今は話したくなさそうじゃな?また聞かせてたも…」

 何となく居心地の悪そうなアイーシャに話を逸らしてあげようと、悪役令嬢ムーブのやり方を聞きだしてゲーム内でやっていた講習を受けたリヨネッタ。
一応、悪役令嬢をやって婚約破棄を狙ってみるか、と言う話に変えた。

(妾は王妃として生きる覚悟を決めたが、まだ婚約を破棄して自由に復讐に生きる道もまた諦めてはいない。勇者との接触は減った方が良いはずなのじゃ…)

 一瞬だけ、つきりと痛みが彼女の胸を刺したが、彼女にはそれが何かわからなかった。


 アイーシャは協力的に悪役令嬢リヨネッタのゲーム内のいじめを教えてくれた。
 ただし、ヒロインの彼女が学園にいないため、身近な学友たちに頼んで、学友たちにいじめもどきをしている姿をスティーブたちに見せる流れになった。


 まずは席を無くすと言ういじめを学友に受けてもらった。

「残念だったなぁ、そなたの席はわら…私のものよ!諦めて私の膝の上に座りなさい!」
「そんな!伯爵家ごときの私がリヨネッタ様のお膝に乗れるなんてっ!」

 またある日は、学友の昼食を奪った。

「あなたのお弁当は私がもらうわ!代わりに私のお弁当を食べなさい!!」
「リ、リヨネッタ様とお弁当交換?!子爵家の私とも仲良くしてくださるなんて、感激です!」

 こんな感じの悪役令嬢ムーブをリヨネッタは頑張ってやっていた。
 すると、スティーブから人気の少ない廊下ですれ違う際に呼びとめを受けた。

(さっそくいじめは良くない、婚約は考え直す!とくるか?)
 
 リヨネッタは慣れないことを数日やっていたことも含めてソワソワした。

「最近のお前の行動のことだが…」
「何か悪いことをしたか?いじめではないぞ、権力を有効活用しただけのことよ」

 ふふん、と鼻で笑ってリヨネッタはあくどく笑ってスティーブを見た。

「…いじめ?何のことだ?そんなことより、お前は女生徒とばかり仲良くし過ぎていないか?」
「なんだ、誤解しないのかぇ。つまらぬなぁ…」
「お前、いくら女学生どうしでも膝にのせて抱っこし合ったり、弁当交換し合ったり、他にも距離が近すぎると思うぞ。やりすぎだ」

 てっきりいじめに対して行ってくると思っていた魔王リヨネッタは、がっかりしながら、ほっとした。

「そっちの話にいったか…いやまて、何故そこまで詳しく知ってる…?いや、それよりそなたこそ妾と距離近くないか?」
「お前はそちらの趣味なのか?」
「どちらの趣味だぇ?イジメは流石に趣味ではないが…」

 気がつけば勇者がかなり近距離にいた。
 魔王は勇ましくは後ずさるも、壁に追い込まれて両腕で囲い込まれた。最近よく起きる不整脈がどきどきと彼女を襲う。

「そなたより、女友達の方が落ち着くのじゃ。当然じゃろ?妾を殺した勇者よ。」
「ほう?」

 早る心臓の音を隠すようにそっぽを向いたリヨネッタに、スティーブにはムッとした顔をした。
 彼の顔が近づき、金髪がリヨネッタの赤髪に混ざる。

(また髪を食らう気か?それともキスをする気か?!)

 リヨネッタはキツく目を閉じて、胸の鼓動を隠すように腕を組んだ。
 一部始終を見ていたダヴィデが、女子の様な悲鳴を上げて離れていく音がする。

 数秒の沈黙の後

 ガブリッ

 リヨネッタは頬を思い切りかじれていた。

「は?え、ガブリッ?!ま、待てひゃめよ。妾を食うにゃ!」

 甘噛みとは言い難い確かな痛みを持って、魔王は勇者に頬を齧られていた。顔が近過ぎてスティーブの表情は見えない。

「やめよ、いひゃい、何で…食うな!」

 ガブガブと頬が噛まれている。

(何が起きたぇ?食われているのは、髪ですらない、だと…)

 小さく悲鳴を上げて退けようとすると、いつのまにかガッチリ抱きつかれている。しかも、光の聖なる魔法を付与したホールドだ。

 ちょっと離れたところから、顔を指で隠して隙間から覗くダヴィデが見えた。それはいつぞやのキス事件を思い出される。

(もしや周りには頬にキスをされているようにでもみえるのかぇ?!だから護衛も少し離れたのか!)

 焦ったリヨネッタは防御魔法を展開しようとして失敗した。相変わらず頬を齧られている。

(おのれ勇者め、妾をくうな!人間は共食いしないのではないのか!認識を改めた妾の苦労は?!)

 何とか魔法で弾こうとするも、光の魔法を展開されて抱きつかれているせいか、体にまるで力が入らない。バチバチと火花だけが散った。

「ここまでなんでするのひゃ、やめよ!おのりぇ、おにょれ、いつか齧り返してやるからなぁ!!」

 頬を齧られているせいでうまく喋れない中で、負け犬の遠吠えよろしく彼女はうめいた。リヨネッタの心臓が恐怖か恋かずっとドキドキと動く。

 そこでやっとスティーブは齧るのをやめた。

「ふん、そら!噛めば良い。」
「この流れで、その言い方は卑怯じゃろ!?」
「お前が悪いんだ!」
「確かに妾は魔王で悪かもしれぬが、だからって齧るな!」
「違う、そう言う意味じゃない。」

 呆れたような顔でスティーブは、自身の歯形で血が出ているリヨネッタの顔を撫でた。光が顔を覆ったので、治癒魔法で治してくれたのだろう。

「ぎゃおー!!?そなたらしくもない!なんなのじゃ!?」

 かつて光の魔法で焼かれた恐怖で奇声を上げて、魔王は勇者から距離を取ろうとする。しかし、未だに抱きつかれて身動きが取れない。

 ガタッっと音がして、知り合いのいちゃいちゃ(誤解?)に気恥ずかしさから見ていられなくなったダヴィデが、彼女の視界の端で遠くへ去っていくのが見えた。
 
 助けはこない。


「何故こんなに伝わらないんだ…魔族は好きな相手を食うんだろ?」
「は?好き??食う…妾を??好きだから齧った??」

 予想外の言葉に、やっとリヨネッタはスティーブの気持ちを理解した。

(確かに魔族は好きな相手ほど食べたくなる。…共食いできるほど好き、と言うことは…え??髪喰われてたのもそっちの感情かぇ??)

「いつもみたいに抵抗しないのか?なら、同意とみなすぞ?」

 リヨネッタは大混乱し、何も抵抗できずにスティーブに今度は反対の頬を齧られた。

(妾もさっき勇者を倒すのではなく、離れるのでもなく、齧ってやろうとした…つまり…??)

 人間14年目にしてリヨネッタは未知の感情を感じていた。




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