魔王でした。自分を殺した勇者な婚約者などお断りです。

文字の大きさ
上 下
13 / 18

勇者なんかお断り!!13歳と半年

しおりを挟む
リヨネッタ13歳と半年

 ハビエルの一件以降、積極的に両親たちも動きリヨネッタはスティーブの正式な婚約者として発表された。
 リヨネッタも今までのような拒絶をせずに婚約発表を望んだことも大きいだろう。
 これで彼女にナンパ騎士のゾグラフ家は手を出すことができないが、よっぽどのことが無い限り彼女は勇者と結婚することになるだろう。


 だが、この告知で彼女が知ったことがある。
 誰も彼女の魔力量に突っ込まなかった理由―

 
 世界の英雄である勇者の子孫、第一王子スティーブと、勇者一行の1人であり伝説の魔法使いの子孫サンチェス公爵家の長女リヨネッタの婚約が決定した。

 そう大々的に国王から宣言されたのである。
 勿論、両親とその世代も驚いていたが祖父母たちの世代は堂々としていた。
 魔法使いの遺言により子孫であるサンチェス家は爵位を得ると同時にその正体を隠していたのだ。

(どおりで妾が魔力を持っていればいるほど、祖父母世代の人間が喜んでいたものよ。勇者を5歳の時に泣かした件も半年で許されたのも、婚約が内密に決まった時に反対が少なかったのもそういうことか…)

 ついでに僧侶はダヴィデの家である宰相一家だった。
 つまり勇者と聖女は初代王妃と王で、僧侶は宰相兼公爵家に、剣士と魔法使いも公爵家になっていたのだ。勇者の子孫一行で女の子はリヨネッタだけだった。
 むしろリヨネッタがどこと結婚するかが、国の未来の肝の話になっていた可能性が高い。


(勇者一行子孫の唯一の女児が魔王の生まれ変わりである妾であるとは…ここは聖女がくるポジションだろうになぁ、ざまあ見よ、人間ども。)

 僧侶の子孫も剣士の子孫も魔王の支配下だった四天王と縁が深くなっており、聖女の生まれ変わりはリヨネッタの親友だ。勇者は勇者だったが、婚約者として発表されてしまった。
 
 いよいよ天下が見えた、そう魔王である彼女は思った。



 この日からリヨネッタはご機嫌だった。
 部屋でくつろぐ彼女の傍には、黒いスライムがころころといくつも転がっている。

―あるじ、あるじ
―好き、大好き
―あいたかった、あの光の人間のせいで近づけなかった
―またあるじの邪魔をするやつ、呪う、溶かす
―光の人間いると動けない、くやしい


 四天王だった怨霊たちと共存するように融合して生き延びたスライムたちは、物騒なことを言って転がっている。
 あの後、ゾグラフ家から帰宅した彼女はドレスの裏側にびっしりと黒いスライムがくっついていることに気が付いた。
 水の魔法で介抱してやり話を聞いて、自身の部屋の屋根裏に住まわせることにしたのだ。
 
 光属性の人間がいると動けないと聞き、それ以降はスティーブを自室に招くことをせずにいる。

 タイミングとしては婚約発表がされる直前からだったが、周囲の人間が安堵して気が付いていなかった。これが後に面倒なことになるのだが、彼女は確かな旧友に会えたことに浮かれて気が付いていなかった。

(人間に転生して13年、ずっと旧知の魔族と魔物を探していたが誰も会えなんだ。やっと、妾の前世は証明された。あぁ、良かった…)

 次の日はアイーシャに会う日でもあり、彼女はかつての中で最高潮の機嫌になっていた。
 そして、迂闊になっていた。



 翌日
 ニコニコといつも通りに騎士科の校舎へ向かう。

「どこに行くんだ婚約者どの?」
「む、勇者か?なんじゃその呼び名は…妾は友人に会いに行くのじゃ。どいてたもれ。」

 朝から晩まで一緒のスティーブに会ったところで感動など湧かない。なんならさっきの本日最後の授業も隣の席だった。

「そうやって毎週毎週、騎士科にいくのはどうかと思うぞ。」
「なぜだぇ?に会いに行くのに、何がいけない。」
「お前!!自分の立場がわかっているのか!」

 もちろん好きな友人と言う意味で彼女は言ったつもりだった。だが、普段からすれ違っている二人では通じない。
 カッとなったスティーブに腕を強引に掴まれる。

「何をする、離さぬか。」
「行かせない、行かせるもんか!」

 バチバチと魔法と聖なる光がぶつかり、火花が廊下に散る。生徒たちが逃げ惑うのをみてスティーブとリヨネッタは咄嗟に力を弱めた。しかし、腕の拘束は外れずにそのまま彼のネクタイで縛られた。

 どうやらツンドラ過ぎる魔王に、勇者な婚約者の堪忍袋の緒が切れてしまったようだ。

「勇者よ、そなたは何を考えている!?」
「屋上だろう?屋上にお前の好きな相手とやらはいるのだろう。余を入れなくなった部屋にも招きいれているんだろう??というものがありながら!!」
「なにを言って…」

 一人称が混ざるほど激高したスティーブは、そのままいつもの護衛ではなく調査用の騎士を呼んでどこかに指示を出した。彼らにそのまま引き渡される。

「ここで待っていろ。その相手とやらとは余が…、俺が話をつけてくる。今後は自由に会えると思うな。」
「は、え…待て…、やめよ!!」
「入学式からずっと気に喰わなかったんだ。」
「妾が気に喰わぬなら、妾に言えばよかろう??」


 普段の護衛と違い、調査用の騎士をどこまで傷を負わせずに攻撃していいのか解らず、リヨネッタが困っている間にスティーブは走り出した。

(このままだと聖女の生まれ変わりでアイーシャと勇者の生まれ変わりであるスティーブが邂逅する!!どうなる、攻略対象とやらに勇者は…スティーブはなったのかぇ?2人は無事か、アイーシャはヒロインになってしまったのかぇ?)

 リヨネッタの心臓がかつてないほどにドキドキと動いた。
 混乱する彼女は状況判断ができなくなった。

(この心臓の早鐘はなんだぇ、何故アイーシャより先にスティーブのことを考えてしまったのじゃ…)



十数分後
 リヨネッタがなんとか調査用の騎士ともめながら、護衛の騎士と一緒に話し合いをしている間に彼は戻ってきた。


「何も相手に酷いことはしておらぬよな??」
「うるさい、魔王め!!このままお前を余以外には誰も入れない光の棟に連れていく!!」

 スティーブは怒ったままだが態度は変わらず、調査用の騎士からリヨネッタを引き取った。


 魔王は嫉妬に駆られた勇者に光の棟に監禁されてしまった。
 また、アイーシャはこの日を境に自主退学してしまったのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ご令嬢は一人だけ別ゲーだったようです

バイオベース
恋愛
魔法が有り、魔物がいる。 そんな世界で生きる公爵家のご令嬢エレノアには欠点が一つあった。 それは強さの証である『レベル』が上がらないという事。 そんなある日、エレノアは身に覚えの無い罪で王子との婚約を破棄される。 同じ学院に通う平民の娘が『聖女』であり、王子はそれと結ばれるというのだ。 エレノアは『聖女』を害した悪女として、貴族籍をはく奪されて開拓村へと追いやられたのだった。 しかし当の本人はどこ吹く風。 エレノアは前世の記憶を持つ転生者だった。 そして『ここがゲームの世界』だという記憶の他にも、特別な力を一つ持っている。 それは『こことは違うゲームの世界の力』。 前世で遊び倒した農業系シミュレーションゲームの不思議な力だった。

婚約破棄ですか。ゲームみたいに上手くはいきませんよ?

ゆるり
恋愛
公爵令嬢スカーレットは婚約者を紹介された時に前世を思い出した。そして、この世界が前世での乙女ゲームの世界に似ていることに気付く。シナリオなんて気にせず生きていくことを決めたが、学園にヒロイン気取りの少女が入学してきたことで、スカーレットの運命が変わっていく。全6話予定

処刑から始まる私の新しい人生~乙女ゲームのアフターストーリー~

キョウキョウ
恋愛
 前世の記憶を保持したまま新たな世界に生まれ変わった私は、とあるゲームのシナリオについて思い出していた。  そのゲームの内容と、今の自分が置かれている状況が驚くほどに一致している。そして私は思った。そのままゲームのシナリオと同じような人生を送れば、16年ほどで生涯を終えることになるかもしれない。  そう思った私は、シナリオ通りに進む人生を回避することを目的に必死で生きた。けれど、運命からは逃れられずに身に覚えのない罪を被せられて拘束されてしまう。下された判決は、死刑。  最後の手段として用意していた方法を使って、処刑される日に死を偽装した。それから、私は生まれ育った国に別れを告げて逃げた。新しい人生を送るために。 ※カクヨムにも投稿しています。

あなたを忘れる魔法があれば

美緒
恋愛
乙女ゲームの攻略対象の婚約者として転生した私、ディアナ・クリストハルト。 ただ、ゲームの舞台は他国の為、ゲームには婚約者がいるという事でしか登場しない名前のないモブ。 私は、ゲームの強制力により、好きになった方を奪われるしかないのでしょうか――? これは、「あなたを忘れる魔法があれば」をテーマに書いてみたものです――が、何か違うような?? R15、残酷描写ありは保険。乙女ゲーム要素も空気に近いです。 ※小説家になろう、カクヨムにも掲載してます

【完結】忌み子と呼ばれた公爵令嬢

美原風香
恋愛
「ティアフレア・ローズ・フィーン嬢に使節団への同行を命じる」  かつて、忌み子と呼ばれた公爵令嬢がいた。  誰からも嫌われ、疎まれ、生まれてきたことすら祝福されなかった1人の令嬢が、王国から追放され帝国に行った。  そこで彼女はある1人の人物と出会う。  彼のおかげで冷え切った心は温められて、彼女は生まれて初めて心の底から笑みを浮かべた。  ーー蜂蜜みたい。  これは金色の瞳に魅せられた令嬢が幸せになる、そんなお話。

婚約破棄? 私、この国の守護神ですが。

国樹田 樹
恋愛
王宮の舞踏会場にて婚約破棄を宣言された公爵令嬢・メリザンド=デラクロワ。 声高に断罪を叫ぶ王太子を前に、彼女は余裕の笑みを湛えていた。 愚かな男―――否、愚かな人間に、女神は鉄槌を下す。 古の盟約に縛られた一人の『女性』を巡る、悲恋と未来のお話。 よくある感じのざまぁ物語です。 ふんわり設定。ゆるーくお読みください。

【完結】記憶が戻ったら〜孤独な妻は英雄夫の変わらぬ溺愛に溶かされる〜

凛蓮月
恋愛
【完全完結しました。ご愛読頂きありがとうございます!】  公爵令嬢カトリーナ・オールディスは、王太子デーヴィドの婚約者であった。  だが、カトリーナを良く思っていなかったデーヴィドは真実の愛を見つけたと言って婚約破棄した上、カトリーナが最も嫌う醜悪伯爵──ディートリヒ・ランゲの元へ嫁げと命令した。  ディートリヒは『救国の英雄』として知られる王国騎士団副団長。だが、顔には数年前の戦で負った大きな傷があった為社交界では『醜悪伯爵』と侮蔑されていた。  嫌がったカトリーナは逃げる途中階段で足を踏み外し転げ落ちる。  ──目覚めたカトリーナは、一切の記憶を失っていた。  王太子命令による望まぬ婚姻ではあったが仲良くするカトリーナとディートリヒ。  カトリーナに想いを寄せていた彼にとってこの婚姻は一生に一度の奇跡だったのだ。 (記憶を取り戻したい) (どうかこのままで……)  だが、それも長くは続かず──。 【HOTランキング1位頂きました。ありがとうございます!】 ※このお話は、以前投稿したものを大幅に加筆修正したものです。 ※中編版、短編版はpixivに移動させています。 ※小説家になろう、ベリーズカフェでも掲載しています。 ※ 魔法等は出てきませんが、作者独自の異世界のお話です。現実世界とは異なります。(異世界語を翻訳しているような感覚です)

王太子が悪役令嬢ののろけ話ばかりするのでヒロインは困惑した

葉柚
恋愛
とある乙女ゲームの世界に転生してしまった乙女ゲームのヒロイン、アリーチェ。 メインヒーローの王太子を攻略しようとするんだけど………。 なんかこの王太子おかしい。 婚約者である悪役令嬢ののろけ話しかしないんだけど。

処理中です...