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始まりの章・再起してから奮起するまで

1.ミカエラは逃走した

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ミカエラ・マーティン16歳 

 彼女は過酷な過去を持つ16歳の少女だ。
 ゴールドピンクの髪に桃色の瞳で、愛らしい顔立ちをしている妖精のような子だった。

 貴族の父と使用人の母を持ち、愛人の子として母と一緒に父の正妻に虐待を受けてきた。ミカエラと彼女を庇う母は、いつも傷だらけでやせ細っていた。
 彼女は学園にいくこともなく使用人として屋敷で働き、正妻の侍女たちに陰湿な嫌がらせをされていた。正妻からは直接、ほうきや鞭、杖などで叩かれる日々だった。

 ミカエラの母親を強姦して妊娠させた父親は、出産の際に男の子ではなかった時点で彼女たちに興味を失い、無視を決め込んでいた。正妻と父親の間に子供は出来ず、召使の母に子供ができたことも、正妻の怒りに触れていたのだろう。

 彼女が15歳になるかならないかの頃に、頼りの母が衰弱して死んだ。

「ごめんね、ごめんね。生きて、…お願いよ。何があっても生きることを諦めないで、…幸せになって。」

 口癖のように普段聞いていた言葉を母親は最後まで繰り返し、静かに逝った。

「お母さまもいないのに幸せなんて無理よ!死なないで、嫌よ。一人にしないでー!!」

 嘆き悲しみ一人で母を弔った彼女の運命は、さらに過酷なものになった。
 更に虐待は酷くなり、誰も正妻を止めなかった。毎日、怒鳴り散らされ叩かれて、動けなくなるまで折檻され、庭へ解放される日々。身寄りのなかった母の墓が庭になければ、彼女の心は折れていただろう。

 唯一の肉親である父親はある日、厄介払いをしようとして、売り払うようにミカエラの婚約を結んできた。

 ミカエラの婚約相手は少女趣味で嗜虐趣味のある資産家で高齢の男だった。

「そこにいった少女たちは誰も生きて帰っては来ない。目障りなお前もこれで消えてくれるわねぇ。」

 楽しそうな正妻から虐待の合間にそれを聞いたミカエラは、ついに行く当てもなく屋敷を飛び出して逃げた。


 逃げて逃げて、狭い路地裏に入り込みんだその先で、鋭く釣り上がった眼の端麗な青年にぶつかった。

「ぶつかってごめんなさい!急いでいるの…」

 それは、偶然か運命か。
 ぶつかった男と目が合った瞬間に、彼女の瞳が熱くなり、ピンク色の光が男を包んだ。

 『魅了の魔法が発動した…青年は虜になった…』

 どこからか懐かしい母の声が聞こえて、呆けていたミカエラだったが、すぐに正気に戻って逃げ去ろうとした。
 しかし、青年はよろめきながら、彼女の腕を掴んで離さない。

「なんだ?思考が上手くいかない、お前はいったい…お前、いや可愛い人、貴方こそ俺の運命の人だ。逃げないでおくれ。違う違う、なんだこの感情は…?そうだ、俺は貴方が好きだった…」
「えっ?…何を、離して下さい!早く逃げないと…!!」

 男はその場でミカエラに求愛を始め、そのまま無理やり彼女を屋敷へと連れ帰った。
 彼女自身も何が起きたのか理解できない出来事だった。
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