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祓除とは強者にのみ許された手段である
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面倒なことになった、と凪沙は思う。
キスのひとつやふたつなら、減るものでもないしさっさと達成して脱出できたのに。
条件が「おもらし」じゃあ心持ち以前に物理的な被害が大きすぎて決まる覚悟も決まらない。
怪異に慣れた凪沙ですらそうなのだから、マリンと湊も当然拒否。
特に湊は半分くらいキレながら他に手段がないか探し始めたし、結局見つからなくて物理に訴え出した。領域型に物理攻撃は無効なのに。……野蛮だ。
ひとしきり暴れた湊が、肩で息をしながら当たり散らす。
「条件付けるくらいなんだからどっかから見てるんでしょ腹立つなァ! 百歩譲ってこれが怪異の仕業だとして、どんな欲望よ!? 支配欲? 征服欲? どうやったらこんな歪み切った欲が湧いてくるわけ!?」
「性欲かと」
「なおさらふざけんじゃないわ!」
不機嫌極まった湊は、残りのペットボトルの中身を飲み干して空のボトルを投げ捨てた。
猫なら毛を逆立てていたことだろう。
荒れた湊の雰囲気などものともせず、マリンはゆるく切り出した。
「えーと、誰ちゃんだっけ?」
「湊」
「んじゃ、湊ちゃん、気ぃ済んだ?」
「済んでない。なんなのこのふざけた部屋は」
「あはは。まあ話し合えるくらい落ち着いたなら何でもいいや」
「話し合って何が解決するっていうのよ」
「だって気まずいじゃん。不機嫌な知らない顔と無言の空間」
「バッカじゃないの!?」
取りつく島もない湊の様子に、マリンは大袈裟に肩をすくめて見せて凪沙に目配せした。
それをしかと受け止めた凪沙が湊を睨め付ける。
「指定されたルールを満たさないと出られないのだから、誰かが力尽きるまでは出られないわ。もちろん怪異を信じず他の方法を探すのはあなたの自由。誰が我慢できなくなっても恨みっこなし。よろしい?」
「勝手に仕切んないで」
「誰かが仕切らないと話が進まないじゃない。それに、どうやったって結末は1つ。私たちは勝手に方針を宣言しただけとでも思ってくれればいいわ」
「…………わかったわよ! せいぜい耐えることね」
湊の捨て台詞で曖昧ながらも休戦協定は成立して一応の決着は着いた。
お互いの状況は当然わかっていない。ただ、湊が一番危ういのではないかとうすうす皆察していた。
凪沙は、得体の知れない領域産の飲食物を摂取するなんて危機感が足りないと思っているし、マリンだって脱出条件に「おもらし」が提示された後にも水分を取るのは冷静じゃないと感じている。
湊自身、まずいことをした自覚はある。自由にトイレに行けないと意識すると、焦燥から下腹部がぞわぞわした。その感覚を握りつぶして、ソファに大袈裟に座り直した。
かくして、少女3名による乙女のプライドをかけた戦いが始まった。
キスのひとつやふたつなら、減るものでもないしさっさと達成して脱出できたのに。
条件が「おもらし」じゃあ心持ち以前に物理的な被害が大きすぎて決まる覚悟も決まらない。
怪異に慣れた凪沙ですらそうなのだから、マリンと湊も当然拒否。
特に湊は半分くらいキレながら他に手段がないか探し始めたし、結局見つからなくて物理に訴え出した。領域型に物理攻撃は無効なのに。……野蛮だ。
ひとしきり暴れた湊が、肩で息をしながら当たり散らす。
「条件付けるくらいなんだからどっかから見てるんでしょ腹立つなァ! 百歩譲ってこれが怪異の仕業だとして、どんな欲望よ!? 支配欲? 征服欲? どうやったらこんな歪み切った欲が湧いてくるわけ!?」
「性欲かと」
「なおさらふざけんじゃないわ!」
不機嫌極まった湊は、残りのペットボトルの中身を飲み干して空のボトルを投げ捨てた。
猫なら毛を逆立てていたことだろう。
荒れた湊の雰囲気などものともせず、マリンはゆるく切り出した。
「えーと、誰ちゃんだっけ?」
「湊」
「んじゃ、湊ちゃん、気ぃ済んだ?」
「済んでない。なんなのこのふざけた部屋は」
「あはは。まあ話し合えるくらい落ち着いたなら何でもいいや」
「話し合って何が解決するっていうのよ」
「だって気まずいじゃん。不機嫌な知らない顔と無言の空間」
「バッカじゃないの!?」
取りつく島もない湊の様子に、マリンは大袈裟に肩をすくめて見せて凪沙に目配せした。
それをしかと受け止めた凪沙が湊を睨め付ける。
「指定されたルールを満たさないと出られないのだから、誰かが力尽きるまでは出られないわ。もちろん怪異を信じず他の方法を探すのはあなたの自由。誰が我慢できなくなっても恨みっこなし。よろしい?」
「勝手に仕切んないで」
「誰かが仕切らないと話が進まないじゃない。それに、どうやったって結末は1つ。私たちは勝手に方針を宣言しただけとでも思ってくれればいいわ」
「…………わかったわよ! せいぜい耐えることね」
湊の捨て台詞で曖昧ながらも休戦協定は成立して一応の決着は着いた。
お互いの状況は当然わかっていない。ただ、湊が一番危ういのではないかとうすうす皆察していた。
凪沙は、得体の知れない領域産の飲食物を摂取するなんて危機感が足りないと思っているし、マリンだって脱出条件に「おもらし」が提示された後にも水分を取るのは冷静じゃないと感じている。
湊自身、まずいことをした自覚はある。自由にトイレに行けないと意識すると、焦燥から下腹部がぞわぞわした。その感覚を握りつぶして、ソファに大袈裟に座り直した。
かくして、少女3名による乙女のプライドをかけた戦いが始まった。
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