1 / 6
怪異とは欲望の煮凝りである
しおりを挟む
「なにコレ意味わかんないんだけど!」
浅川マリンは脳直で叫んだ。
だって彼女は、ついさっきまで外にいたはずなのだ。学校からの帰り道、ちょうど友達と別れて1人になって、小さな橋を渡ろうとしたところだった。
だというのに、今いるのは無機質な白い部屋。一人がけのソファが3つとわずかばかり物が乗ったローテーブルだけが場違いに置いてある。
そのソファには、マリンを含む少女たちがそれぞれ身を投げ出されていた。
マリンの混乱と焦燥の矛先は、周囲に向けられる。
「ちょっとアンタたちもなんか言いなさいよ。どっちかが犯人だったりするわけ?」
「なわけないでしょ! 私だって何も知らないってば。部室から出ただけのはずなのに」
苛立ちを隠さずに反論したのは司波湊。部活上がりらしく湿り気のある前髪を弄りながら、キッと視線を返す。
決して友好的な態度とは言い難いが、暫定味方ではない以上悪意には悪意で返すのはおかしくない。
2人が身を乗り出して険悪気味に睨み合うのを咎めるように、やけに冷静な残りの1人ーー比良坂凪沙が口を開いた。
「怪異、でしょうね」
「は? 頭大丈夫?」
「怪異って、ただの都市伝説でしょ?」
「いいえ、怪異は実在する。現に、巻き込まれているでしょう、私たち」
凪沙が言うことには、怪異とは欲望の煮凝り。感情の集合体が具現化した自然災害のようなもの、らしい。
知的眼鏡の凪沙がもっともらしく説明すると、生来単純思考なマリンにはそんなこともあるのかと思えてくる。
本人にさえ気付かれずに見知らぬ場所へ攫うなんて、たしかに人間技じゃなかったもんね。
少し混乱が収まった彼女は、中身が見えそうな短すぎるスカートを整えてソファに座り直しうんうん頷いた。
そんなマリンを、湊は引いた目で見ていた。正気を疑いさえした。
部活で疲れた湊には、荒唐無稽な推理に付き合う元気はない。
無意識にローテーブルの上のペットボトルに手を伸ばし、喉を潤す。自覚よりも乾いていたようで、500mlのボトルは半分ほどしか残らなかった。
ふぅうと肺に篭った空気を全て吐き出して頭を入れ替える。
命を奪わずに軟禁している以上、犯人にはなんらかの目的があってしかるべきなのだ。少女に何かさせたいのかもしれないし、単なる人質かもしれない。
密室とはいえ拘束もないうえに接触もないわけだから、犯人の意図がまったくもって伝わってこない。
怪異などという非科学的な推理に賛同しはしないが、全て怪異に押し付けてしまいたいほど謎ばかりということは確かだった。
他方、湊の目など誰も気にせず、2人は勝手に話を進めていた。
「怪異なら、なんらかのルールに則っているはずよ。密室系なら脱出条件の限定により強固にするとかね」
「なるほどね~。じゃあ、ここも何か脱出条件があるってわけか」
「ええ。認識させた方が領域が強固になるから、どこかわかりやすいところに提示されるのがセオリーなのだけど……」
右から左に聞き流していた馬鹿げた解説に、ふとテーブルの上に目線を向ける。
ペットボトルを文鎮替わりに置かれた封筒が1つ。
嫌な感じがひしひしと漂うが無視するわけにもいかず、恐る恐る封を破った。
取り出した葉書大の厚紙を見て、湊は思わず叩きつけた。
「ふ、ふざ、ふざけないでよっ!!」
凪沙とマリンの視線が、大きな音を立てた湊の手元に集中する。
そこには、無機質な字で幅いっぱい使って「おもらししないと出られない部屋」と書かれていた。
浅川マリンは脳直で叫んだ。
だって彼女は、ついさっきまで外にいたはずなのだ。学校からの帰り道、ちょうど友達と別れて1人になって、小さな橋を渡ろうとしたところだった。
だというのに、今いるのは無機質な白い部屋。一人がけのソファが3つとわずかばかり物が乗ったローテーブルだけが場違いに置いてある。
そのソファには、マリンを含む少女たちがそれぞれ身を投げ出されていた。
マリンの混乱と焦燥の矛先は、周囲に向けられる。
「ちょっとアンタたちもなんか言いなさいよ。どっちかが犯人だったりするわけ?」
「なわけないでしょ! 私だって何も知らないってば。部室から出ただけのはずなのに」
苛立ちを隠さずに反論したのは司波湊。部活上がりらしく湿り気のある前髪を弄りながら、キッと視線を返す。
決して友好的な態度とは言い難いが、暫定味方ではない以上悪意には悪意で返すのはおかしくない。
2人が身を乗り出して険悪気味に睨み合うのを咎めるように、やけに冷静な残りの1人ーー比良坂凪沙が口を開いた。
「怪異、でしょうね」
「は? 頭大丈夫?」
「怪異って、ただの都市伝説でしょ?」
「いいえ、怪異は実在する。現に、巻き込まれているでしょう、私たち」
凪沙が言うことには、怪異とは欲望の煮凝り。感情の集合体が具現化した自然災害のようなもの、らしい。
知的眼鏡の凪沙がもっともらしく説明すると、生来単純思考なマリンにはそんなこともあるのかと思えてくる。
本人にさえ気付かれずに見知らぬ場所へ攫うなんて、たしかに人間技じゃなかったもんね。
少し混乱が収まった彼女は、中身が見えそうな短すぎるスカートを整えてソファに座り直しうんうん頷いた。
そんなマリンを、湊は引いた目で見ていた。正気を疑いさえした。
部活で疲れた湊には、荒唐無稽な推理に付き合う元気はない。
無意識にローテーブルの上のペットボトルに手を伸ばし、喉を潤す。自覚よりも乾いていたようで、500mlのボトルは半分ほどしか残らなかった。
ふぅうと肺に篭った空気を全て吐き出して頭を入れ替える。
命を奪わずに軟禁している以上、犯人にはなんらかの目的があってしかるべきなのだ。少女に何かさせたいのかもしれないし、単なる人質かもしれない。
密室とはいえ拘束もないうえに接触もないわけだから、犯人の意図がまったくもって伝わってこない。
怪異などという非科学的な推理に賛同しはしないが、全て怪異に押し付けてしまいたいほど謎ばかりということは確かだった。
他方、湊の目など誰も気にせず、2人は勝手に話を進めていた。
「怪異なら、なんらかのルールに則っているはずよ。密室系なら脱出条件の限定により強固にするとかね」
「なるほどね~。じゃあ、ここも何か脱出条件があるってわけか」
「ええ。認識させた方が領域が強固になるから、どこかわかりやすいところに提示されるのがセオリーなのだけど……」
右から左に聞き流していた馬鹿げた解説に、ふとテーブルの上に目線を向ける。
ペットボトルを文鎮替わりに置かれた封筒が1つ。
嫌な感じがひしひしと漂うが無視するわけにもいかず、恐る恐る封を破った。
取り出した葉書大の厚紙を見て、湊は思わず叩きつけた。
「ふ、ふざ、ふざけないでよっ!!」
凪沙とマリンの視線が、大きな音を立てた湊の手元に集中する。
そこには、無機質な字で幅いっぱい使って「おもらししないと出られない部屋」と書かれていた。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
徹夜でレポート間に合わせて寝落ちしたら……
紫藤百零
大衆娯楽
トイレに間に合いませんでしたorz
徹夜で書き上げたレポートを提出し、そのまま眠りについた澪理。目覚めた時には尿意が限界ギリギリに。少しでも動けば漏らしてしまう大ピンチ!
望む場所はすぐ側なのになかなか辿り着けないジレンマ。
刻一刻と高まる尿意と戦う澪理の結末はいかに。
召喚聖女は耐えられない〜おしっこが魔力ってマジで言ってんの〜
紫藤百零
大衆娯楽
私、満池清香はどこにでもいる普通の女子高生。ある日の下校中、緊急停止した電車のせいでおしっこをぎりぎりまで我慢する羽目になってしまった。やっとの思いで駅にたどり着いたというのに、踵を踏まれて真っ逆さま。目が覚めた先は見知らぬ場所。しかも私を聖女さまなんて呼んでいる。いったいどういうことなの?でもその前に、トイレに行かせて!
聖女の仕事は聖水作りです!?
紫藤百零
大衆娯楽
聖水=聖女のおしっこ!?
聖女の唯一にして最重要な仕事、それが聖水作り。聖水の原料を摂取しては、おしっことして排出するのだ。
尿意高まる新素材に挑戦された新米聖女アリステアの運命やいかに!!
魔法少女は特別製
紫藤百零
大衆娯楽
魔法少女ティアドロップこと星降雫は、1日かけてしぶとい敵をようやく倒し終わったところ。気が抜けた彼女を襲うのは、日中気にも留めなかった生理的欲求ーー尿意だ。ここで負けたら乙女失格! 雫は乙女としても勝利を手にすることができるのか!?
囚われの王女、屈する
紫藤百零
大衆娯楽
癒やしの魔術を用いるユーフィミア・カスミ・グラウカ王女は勇者と共に魔王に挑んだ。しかし、城に踏み込んですぐにトラップにかかって囚われてしまう。囚われの王女を襲うのは、そうーーーー尿意だ。果たして誇り高きユーフィミア王女は尿意に打ち勝つことができるのか!?
おしっこ我慢が趣味の彼女と、女子の尿意が見えるようになった僕。
赤髪命
青春
~ある日目が覚めると、なぜか周りの女子に黄色い尻尾のようなものが見えるようになっていた~
高校一年生の小林雄太は、ある日突然女子の尿意が見えるようになった。
(特にその尿意に干渉できるわけでもないし、そんなに意味を感じないな……)
そう考えていた雄太だったが、クラスのアイドル的存在の鈴木彩音が実はおしっこを我慢することが趣味だと知り……?
澪峯国後宮秘水譚〜乙女の秘密は漏洩禁止!〜
紫藤百零
大衆娯楽
これは、おしっこ我慢を強いられる、後宮に住まう乙女たちの裏話である。
淑女たる者、他人に尿意を悟られてはならないーーそれが国で最も高貴な妃たちならなおさら。
ここ、澪嶺国は酒宴と茶会を好む文化圏。長時間に及ぶ宴は、姫たちの膀胱を蝕んでいた。
決して市井に漏れることのない、美姫とおしっこの戦いをここに記録する。
短編連作のためどこからでも読めます。
※設定資料は随時更新
「幼皇后は宴で限界!」【完】
いつもより長時間に及ぶ宴で密かに尿意に耐える皇后(15)の話(おしっこ我慢/おもらし)
「幼皇后は秘密の特訓!」【完】
初めての宴後侍女たちの前で失敗してしまった新米皇后(14)が我慢の練習をする話(故意我慢/おもらし)
「側付きたる者毒味は必須!」【完】
差し入れられた練習用のお茶の安全確認のために毒味して限界になる皇后付き侍女の話(故意我慢/限界放尿)
「崖っぷち妃の極限絶奏!」【完】
宿下がり間際の崖っぷち中級妃(24)が宴の演目中必死で我慢を続ける話(おしっこ我慢/限界放尿/おもらし)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる