召喚聖女は耐えられない〜おしっこが魔力ってマジで言ってんの〜

紫藤百零

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始まりの我慢

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 学校帰りの電車。友だちと別れて最寄りまであとひと駅、というところで急に止まってしまった。
 アナウンスが、遠くの駅で緊急停止ボタンが押されたことを告げている。

 運がないな。内股で、お腹をさすりながらそう思った。

 部活が終わった後、少しトイレに行きたかったけれど、教室から友だちと一緒だったものだから流されて学校を出てしまった。
 わざわざ抜け出すほどではないと思ったのだ。

 それから数十分経った今ではその判断をまずったかなと後悔している。

 電車に乗った時点で普段ならトイレに行ってるレベルだった。
 でも話の腰を折るのは気が引けたし、何より家まで我慢できないみたいで言い出せるわけがない。

 その時はまだ平気だと思ったのだ。
 でもダメ。今は駅に着いたらトイレに駆け込みたい。

 そんな状態で緊急停止アナウンスである。もう絶望の2文字。

 カバンで隠しながら太ももを擦り合わせる。
 ……バレてないよね? もうじっと我慢はできない。

 気を逸らすためのスマホも全く頭に入ってこないからしまってしまった。

「お客様にお知らせします。安全確認が取れましたので、この電車まもなく次の湯張駅に向かい出発いたします。お急ぎのところご迷惑をおかけしまして申し訳ありません」

 のろのろ電車が動き出す。もう少しの辛抱。
 あまり進んでいるように見えない電車にイライラしながら、必死で括約筋に力を込める。


 いつもの倍以上時間をかけて、ようやく目的の駅に到着した。

 あとは改札階のトイレへ駆け込むだけ……!


 人の波を縫いながら、改札階への階段を降りようとしたそのとき、靴に軽い衝撃。

「あ、すみません」

 反射でしかなさそうな謝罪が背後から聞こえる。

 靴の踵を踏まれたのだ。

 普段ならなんてことない衝撃だけど、我慢のために平時とは違う場所に力を入れていた私はバランスを崩してしまった。

 浮遊感。落ちている。ーー落ちている!

「ひぃっ」

 引き攣る悲鳴。恐怖。衝撃でちびった。最悪だ。だめ。ここで意識を飛ばしたら漏らす。絶対漏らす。

 むなしくも視界が真っ白に染まった直後、私の記憶は飛んでいる。




「やった、成功だ……! 歓迎いたします、聖女さま!」

「……は?」

 次の記憶はファンタジーみたいな美形たちに聖女として歓迎されたところから始まった。
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