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崖っぷち妃の極限絶奏!
終演
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音取りのため、寧珠が弦を爪弾く。それから、2節の独奏の後に他の4人の演奏が重なった。
曲の初めは恋の自覚。目にするもの全てが美しいと言わんばかりのきらきらした楽しげな曲調は、寧珠をはじめ年若い妃たちによく似合っている。
装束の下は暴れる尿意で時折震えていたけれど、綺麗に取り繕って恋を楽しむ表情をのせる。
妃は美を装うのも仕事だ。
そして春姫が嫉妬に狂い始めると、途端に曲も超絶技巧を求められるように変化する。
とりわけ翠蘭が担当する部分は細かな指遣いが要求され難易度が高い。
もちろん歴だけは長い妃であるので、音を外すようなヘマはしない。
ただ、表情は悲痛に強張ったままだし、時折じゅ……じゅ……と漏れ出したそれが足の付け根を濡らしていた。
(はぁっ……ダメ…………出てるっ……ああ、床まで濡れていないかしら)
注目の集まるなかでの最悪の失態が脳裏をよぎり、慌ててかき消す。
演目の終わりをいまかいまかと待ち構えていた。
さて、失敗の二文字が脳裏によぎったのは何も翠蘭だけではない。
他の人員は寧珠をはじめ年若く、十代後半がほとんどだ。予定外の延長戦に内心では泣いている。
妃たちの悲痛を背に、終曲へと転じる。あの手この手で気を引かんと努力した春姫の念願叶って王の寵を得られたのである。位の低い妃にとってはとても縁起の良い曲なのだ。
だからこそ、失敗したら二度と寵愛を得ることはできないとも恐れられている。
浅く繰り返される浅い息が、翠蘭の限界を伝えてくる。
そんな状態でも音は外せない。もはや意地で保っている。
最も軽やかに、楽しげに爪弾かなければならないのに、焦燥と懇願が透けて見えた。
ただ、苦しげなそれは色っぽくも見えて、早くも後に続く者を恐れているようにもとれる。
春姫は男児を産めずに気を病み儚くなった妃だ。
春姫を讃える恋歌は、そんな事実などなかったかのように幸せの絶頂で幕を下ろす。
解釈としては珍しいが、史実を踏まえて不安を醸すのはありだ。
実際陛下はお気に召した様子で、目を細めて妃たちを眺めている。
もっとも、陛下は性癖が歪みあそばせているので、そのせいかもしれないが。
誰一人堰堤を決壊させることなく演目が終わった。微々たる放水はご愛嬌というもの。
ゆっくりと立ち上がった中央の寧珠に続き、他の面々も立ち上がる。
そして腰を落として礼をする。その拍子にじょわっ……と小決壊を起こしたのは一人ではあるまい。
演奏などの他のことをしていなければ顔に出すような者はいないので本人のみぞ知るところ。
しずしずと優雅に舞台裏へと下がっていく。見られるところでは美しくあるのも妃の仕事。
――されど舞台裏での出来事は暗黙の秘密。
主人のことをよく心得た翠蘭の侍女が馬桶片手にすっ飛んできた。
そう。翠蘭はもう限界も限界。視線よけに下された幕の内に隠れることすら難しい。
年下の前なんて理性などすでに溶け、秘水は今か今かと暴れ狂う。裳をバサリと掻き上げ、ひったくった馬桶にすとんと跨る。もうその前にはちろちろ秘水は溢れ出て、光を知らない真白な内腿を伝っていた。たちまちじゅいいと雄々しい水音が放たれ、水面に液体を叩きつける音が加わった。
「ふぅっ……あぁ…………はぁああん……♡」
我慢に我慢を重ねた秘水を解放する快楽はいかほどか。
24にしていまだ純潔たる翠蘭はこれ以上を知らない。
こうして、後宮に入ってから何年も躊躇していた舞をやり切った翠蘭の元には、その後無事陛下のお渡りがあったとか。
それが真実舞のおかげなのか、はたまた陛下の歪んだ性癖に合致しただけなのかは闇の中である。
曲の初めは恋の自覚。目にするもの全てが美しいと言わんばかりのきらきらした楽しげな曲調は、寧珠をはじめ年若い妃たちによく似合っている。
装束の下は暴れる尿意で時折震えていたけれど、綺麗に取り繕って恋を楽しむ表情をのせる。
妃は美を装うのも仕事だ。
そして春姫が嫉妬に狂い始めると、途端に曲も超絶技巧を求められるように変化する。
とりわけ翠蘭が担当する部分は細かな指遣いが要求され難易度が高い。
もちろん歴だけは長い妃であるので、音を外すようなヘマはしない。
ただ、表情は悲痛に強張ったままだし、時折じゅ……じゅ……と漏れ出したそれが足の付け根を濡らしていた。
(はぁっ……ダメ…………出てるっ……ああ、床まで濡れていないかしら)
注目の集まるなかでの最悪の失態が脳裏をよぎり、慌ててかき消す。
演目の終わりをいまかいまかと待ち構えていた。
さて、失敗の二文字が脳裏によぎったのは何も翠蘭だけではない。
他の人員は寧珠をはじめ年若く、十代後半がほとんどだ。予定外の延長戦に内心では泣いている。
妃たちの悲痛を背に、終曲へと転じる。あの手この手で気を引かんと努力した春姫の念願叶って王の寵を得られたのである。位の低い妃にとってはとても縁起の良い曲なのだ。
だからこそ、失敗したら二度と寵愛を得ることはできないとも恐れられている。
浅く繰り返される浅い息が、翠蘭の限界を伝えてくる。
そんな状態でも音は外せない。もはや意地で保っている。
最も軽やかに、楽しげに爪弾かなければならないのに、焦燥と懇願が透けて見えた。
ただ、苦しげなそれは色っぽくも見えて、早くも後に続く者を恐れているようにもとれる。
春姫は男児を産めずに気を病み儚くなった妃だ。
春姫を讃える恋歌は、そんな事実などなかったかのように幸せの絶頂で幕を下ろす。
解釈としては珍しいが、史実を踏まえて不安を醸すのはありだ。
実際陛下はお気に召した様子で、目を細めて妃たちを眺めている。
もっとも、陛下は性癖が歪みあそばせているので、そのせいかもしれないが。
誰一人堰堤を決壊させることなく演目が終わった。微々たる放水はご愛嬌というもの。
ゆっくりと立ち上がった中央の寧珠に続き、他の面々も立ち上がる。
そして腰を落として礼をする。その拍子にじょわっ……と小決壊を起こしたのは一人ではあるまい。
演奏などの他のことをしていなければ顔に出すような者はいないので本人のみぞ知るところ。
しずしずと優雅に舞台裏へと下がっていく。見られるところでは美しくあるのも妃の仕事。
――されど舞台裏での出来事は暗黙の秘密。
主人のことをよく心得た翠蘭の侍女が馬桶片手にすっ飛んできた。
そう。翠蘭はもう限界も限界。視線よけに下された幕の内に隠れることすら難しい。
年下の前なんて理性などすでに溶け、秘水は今か今かと暴れ狂う。裳をバサリと掻き上げ、ひったくった馬桶にすとんと跨る。もうその前にはちろちろ秘水は溢れ出て、光を知らない真白な内腿を伝っていた。たちまちじゅいいと雄々しい水音が放たれ、水面に液体を叩きつける音が加わった。
「ふぅっ……あぁ…………はぁああん……♡」
我慢に我慢を重ねた秘水を解放する快楽はいかほどか。
24にしていまだ純潔たる翠蘭はこれ以上を知らない。
こうして、後宮に入ってから何年も躊躇していた舞をやり切った翠蘭の元には、その後無事陛下のお渡りがあったとか。
それが真実舞のおかげなのか、はたまた陛下の歪んだ性癖に合致しただけなのかは闇の中である。
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