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崖っぷち妃の極限絶奏!
背水の陣
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ここは数多の妃、女官が侍る澪峯国の後宮。
中級妃の一人である翠蘭には、もう後がなかった。
なにせ彼女は天狼陛下が皇帝になった時に後宮へ入った古株で、もう年も24だというのに一度もお渡りがないのである。
25まで一度もお渡りがなければ後宮を辞してもいいことになっている。
年齢で言えば嫁き遅れになるけれど、後宮勤めの経験者なら話は別。
その付加価値は多少の階級差は目溢しされるほど。
金はあるが位はない商家の政略結婚の道具としてはお釣りが来る。
翠蘭はそんな道具にされるくらいならば後宮で一生を終えたいと思ってしまった。
けれど、実家に呼び戻されてしまえば逆らう力はない。
もう、一度きりで構わないからお渡りに縋るしかないのである。
中級妃であれば、ギリギリお渡りが狙える位階だ。なんらかの宴で目に留まれば、一度くらいはお渡りがあってもおかしくはない。
実際、過去にはその機会をものにして上級妃に繰り上がった者もいる。
翠蘭は楽や舞が得意だ。こればかりは貴族のお姫さまとだって戦える技量があると自負している。十全に実力が発揮できれば、陛下の目にだって留まれる自信がある。
だというのに何故これまでお渡りがなかったかというと、この翠蘭、人より我慢が苦手な性質だった。
特に10代の頃は体内の気が乱れていたのか不安定極まりなく、長時間の宴ともなると我慢から意識を逸らせば粗相をしてしまいそうで、演目に集中できなかったのだ。
今度の月酔の宴は、亜琉皇后の立后1周年を記念した大規模なもの。妃は全員参加のため、相当上手くやらないと印象には残れない。
だから、本来なら一番得意なのだけれど最中の我慢に不安があるから封印してきた舞で参加することにした。
舞は、爪の先まで神経を使ううえ、背を逸らしたり、足を上げたりと、秘水が溢れ出しそうになる動きが続く。10代の頃の翠蘭は注目が集まるなか失敗するのが恐ろしくて、選ぶことができなかった。
けれど、もう、後がない。
本気で後宮に残りたいのなら舞にするように侍女にも説得され、舞での参加を決意したのだ。
そんな時、同じ中級妃の寧珠からお誘いがあった。
「ねえ、翠蘭さま、もしよろしければ次の宴で一緒に筝を奏でていただけませんか? わたくし、初めてで不安なのです」
寧珠は幼さの残る水っぽい瞳で懇願する。まだ13のこの少女を、翠蘭はなにくれと気にかけてやっていた。
「申し訳ありません。せっかくのお誘いですけれど、すでに舞で参加申請を終えてしまいましたの」
「まあ。けれど、いくつかの演目に出られる方もいらっしゃいますわ。どうか寧珠をお助けくださいませ」
純粋で愛らしい見た目とは裏腹に、寧珠はあざといところがある。
どうすれば自分の意見を通せるか、相手を頷かせられるか、仕草や言葉を無意識に変えているのだ。そうと知っていても許してしまうあやしい魅力が彼女にはあった。
翠蘭も例に漏れず、陛下の目に付く可能性が上がるだろうし、と心中で言い訳を並べながらも、結局誘いに乗ってしまった。
中級妃の一人である翠蘭には、もう後がなかった。
なにせ彼女は天狼陛下が皇帝になった時に後宮へ入った古株で、もう年も24だというのに一度もお渡りがないのである。
25まで一度もお渡りがなければ後宮を辞してもいいことになっている。
年齢で言えば嫁き遅れになるけれど、後宮勤めの経験者なら話は別。
その付加価値は多少の階級差は目溢しされるほど。
金はあるが位はない商家の政略結婚の道具としてはお釣りが来る。
翠蘭はそんな道具にされるくらいならば後宮で一生を終えたいと思ってしまった。
けれど、実家に呼び戻されてしまえば逆らう力はない。
もう、一度きりで構わないからお渡りに縋るしかないのである。
中級妃であれば、ギリギリお渡りが狙える位階だ。なんらかの宴で目に留まれば、一度くらいはお渡りがあってもおかしくはない。
実際、過去にはその機会をものにして上級妃に繰り上がった者もいる。
翠蘭は楽や舞が得意だ。こればかりは貴族のお姫さまとだって戦える技量があると自負している。十全に実力が発揮できれば、陛下の目にだって留まれる自信がある。
だというのに何故これまでお渡りがなかったかというと、この翠蘭、人より我慢が苦手な性質だった。
特に10代の頃は体内の気が乱れていたのか不安定極まりなく、長時間の宴ともなると我慢から意識を逸らせば粗相をしてしまいそうで、演目に集中できなかったのだ。
今度の月酔の宴は、亜琉皇后の立后1周年を記念した大規模なもの。妃は全員参加のため、相当上手くやらないと印象には残れない。
だから、本来なら一番得意なのだけれど最中の我慢に不安があるから封印してきた舞で参加することにした。
舞は、爪の先まで神経を使ううえ、背を逸らしたり、足を上げたりと、秘水が溢れ出しそうになる動きが続く。10代の頃の翠蘭は注目が集まるなか失敗するのが恐ろしくて、選ぶことができなかった。
けれど、もう、後がない。
本気で後宮に残りたいのなら舞にするように侍女にも説得され、舞での参加を決意したのだ。
そんな時、同じ中級妃の寧珠からお誘いがあった。
「ねえ、翠蘭さま、もしよろしければ次の宴で一緒に筝を奏でていただけませんか? わたくし、初めてで不安なのです」
寧珠は幼さの残る水っぽい瞳で懇願する。まだ13のこの少女を、翠蘭はなにくれと気にかけてやっていた。
「申し訳ありません。せっかくのお誘いですけれど、すでに舞で参加申請を終えてしまいましたの」
「まあ。けれど、いくつかの演目に出られる方もいらっしゃいますわ。どうか寧珠をお助けくださいませ」
純粋で愛らしい見た目とは裏腹に、寧珠はあざといところがある。
どうすれば自分の意見を通せるか、相手を頷かせられるか、仕草や言葉を無意識に変えているのだ。そうと知っていても許してしまうあやしい魅力が彼女にはあった。
翠蘭も例に漏れず、陛下の目に付く可能性が上がるだろうし、と心中で言い訳を並べながらも、結局誘いに乗ってしまった。
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