澪峯国後宮秘水譚〜乙女の秘密は漏洩禁止!〜

紫藤百零

文字の大きさ
上 下
14 / 19
崖っぷち妃の極限絶奏!

背水の陣

しおりを挟む
 ここは数多の妃、女官が侍る澪峯れいほう国の後宮。

 中級妃の一人である翠蘭すいらんには、もう後がなかった。
 なにせ彼女は天狼てんろう陛下が皇帝になった時に後宮へ入った古株で、もう年も24だというのに一度もお渡りがないのである。

 25まで一度もお渡りがなければ後宮を辞してもいいことになっている。
 年齢で言えば嫁き遅れになるけれど、後宮勤めの経験者なら話は別。
 その付加価値は多少の階級差は目溢しされるほど。
 金はあるが位はない商家の政略結婚の道具としてはお釣りが来る。

 翠蘭はそんな道具にされるくらいならば後宮で一生を終えたいと思ってしまった。
 けれど、実家に呼び戻されてしまえば逆らう力はない。
 もう、一度きりで構わないからお渡りに縋るしかないのである。

 中級妃であれば、ギリギリお渡りが狙える位階だ。なんらかの宴で目に留まれば、一度くらいはお渡りがあってもおかしくはない。
 実際、過去にはその機会をものにして上級妃に繰り上がった者もいる。

 翠蘭は楽や舞が得意だ。こればかりは貴族のお姫さまとだって戦える技量があると自負している。十全に実力が発揮できれば、陛下の目にだって留まれる自信がある。

 だというのに何故これまでお渡りがなかったかというと、この翠蘭、人より我慢・・が苦手な性質だった。
 特に10代の頃は体内の気が乱れていたのか不安定極まりなく、長時間の宴ともなると我慢から意識を逸らせば粗相をしてしまいそうで、演目に集中できなかったのだ。


 今度の月酔つきよひの宴は、亜琉ありゅう皇后の立后1周年を記念した大規模なもの。妃は全員参加のため、相当上手くやらないと印象には残れない。

 だから、本来なら一番得意なのだけれど最中の我慢に不安があるから封印してきた舞で参加することにした。
 舞は、爪の先まで神経を使ううえ、背を逸らしたり、足を上げたりと、秘水おしっこが溢れ出しそうになる動きが続く。10代の頃の翠蘭は注目が集まるなか失敗するのが恐ろしくて、選ぶことができなかった。

 けれど、もう、後がない。
 本気で後宮に残りたいのなら舞にするように侍女にも説得され、舞での参加を決意したのだ。


 そんな時、同じ中級妃の寧珠ねいじゅからお誘いがあった。

「ねえ、翠蘭さま、もしよろしければ次の宴で一緒に筝を奏でていただけませんか? わたくし、初めてで不安なのです」

 寧珠は幼さの残る水っぽい瞳で懇願する。まだ13のこの少女を、翠蘭はなにくれと気にかけてやっていた。

「申し訳ありません。せっかくのお誘いですけれど、すでに舞で参加申請を終えてしまいましたの」
「まあ。けれど、いくつかの演目に出られる方もいらっしゃいますわ。どうか寧珠をお助けくださいませ」

 純粋で愛らしい見た目とは裏腹に、寧珠はあざといところがある。
 どうすれば自分の意見を通せるか、相手を頷かせられるか、仕草や言葉を無意識に変えているのだ。そうと知っていても許してしまうあやしい魅力が彼女にはあった。

 翠蘭も例に漏れず、陛下の目に付く可能性が上がるだろうし、と心中で言い訳を並べながらも、結局誘いに乗ってしまった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

自習室の机の下で。

カゲ
恋愛
とある自習室の机の下での話。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ナースコール

wawabubu
青春
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...