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春告鳥④

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『お懐かしい文子様。

 年の瀬も押し迫った日、私は帰国いたしました。
 亜米利加での生活は、とても楽しく有意義で、ずっとここで暮らしたいと思ったほど、私とは水が合いました。
 ですが、そもそもの留学の目的は、かの国で英語を学び、女性の活躍を間近に見て得た知見を、日本の皆様に披露することでした。
 帰国後は、女高師じょこうしで学んで教師として働くつもりでしたが、女子醫專いせんで五年間学修すると醫師の免状を貰えるので、思い切ってそちらに鞍替えすることにいたしました。父も応援してくれています。
 今後は、独逸語を一から学んだりと、想像するだけでくじけそうなくらい、大変な生活になりそうです。
 文子様は、捲土重来かしら。
 私たちが、それぞれ進む道はいばらの道かもしれません。文子さんを同志と勝手に思っている私は、一緒にがんばる同志がいてくださるだけで元気が出ます。
 ではまたいつか、ゆっくりとお話ししましょうね。
 
 頼子拝』


 頼子さんのお手紙は、まるで春告鳥のようだ。鶯の鳴く季節は、まだ先なのだけれど。
 玄関はしんと寒く、体は冷え切っていたが、胸の奥は温かい。

 丁度一年前、利晴さんとの結婚が破談になってすぐのお正月。初詣の帰り道に、藤崎先生や頼子さんと、ばったり出会ったのだった。
 その後、女子職業学校で働き、公威さんから交際のお申し込みがあって……。

 ここ数年は、つらいことのほうが多かったかもしれない。でも、いろんな経験が、今の私を支えてくれている。

 また新しい一年が始まる。
 今年は、どんな年になるのだろう。
 予想外の出来事が、私たちを襲ってくるかもしれない。
 でも、私は私の道を進むだけ。
 公威さんと肩を並べ歩いていける、その日が来ると信じて、今はひとり歩いていくのだ。


【おわり】
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