魔風恋風〜大正乙女人生譚

花野未季

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春告鳥②

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「学校に?」
「お姉様、どういう学校に通われるおつもりなの?」
「それが。まだ迷ってて」

「お嬢様、お勉強している間に、公威様とのご結婚が決まるかもしれませんよ。その時は、どうなさるおつもりですか?」

 婆やに言われるが、そこは私の中では決まっている。
「結婚とは関係なく、勉強は続けるつもり」

「でも、お嬢様のような方は仕事などせず、然るべきお家に嫁がれるのが当たり前でございますよ」

「婆やったら。そういう考え方は、もはや古いんじゃないの?」
 律子が笑う。

「古いもんですか! 淡路のような立派なお家のお嬢様は、本来なら女学校を出てすぐに、御寮様奥様になられるのが当たり前なんです」

 むきになって言う婆やを宥めるように、母が口を挟んだ。
「私も婆やと同じように考えていたわ。実際、私の若い頃は、外で働く女の人は後ろ指さされたりしたものよ。でも世の中は変わったわ。ねえ、千代」

 急に話を振られた千代は、びっくりして背筋を伸ばした。
「どうでしょう? 私にはわかりません」
 母は千代を見て、優しく笑う。

「お父様が亡くなられ、束の間、私はお商売に取り組みましたが、悲しいかな、働いたことのない私には無理でした。幸い、合原様のご助力で、今は日々の暮らしに困ることはありませんけどね」

 母はしみじみとした調子で、私たちを見回して言った。
「働くということは尊いこと。一足早く、新しい道に進んだ千代は立派です」

「千代は立派です。それは私も思っています。でも、奥様」
 婆やが前のめりで話し始める。

「外で働くのではなく、お家で夫や子供のお世話をするのだって、立派なお仕事です。むしろ、それこそが女の務め、女の道です。千代だって、ゆくゆくは人の妻となって、家を守らなくてはならないのですよ」

 婆やの言葉を聞いた私と律子は、思わず顔を見合わせる。
 律子は軽く肩をすくめ、首を左右に振ってみせた。
 そんな私たちを見て、千代は俯いて笑いを堪えている。
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