魔風恋風〜大正乙女人生譚

花野未季

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冬のお別れ④

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「ははは、律子さんは相変わらず手加減なしですね、実に痛快な方だ」
 公威さんは朗らかに笑う。

「あら。でも、いっとう心配なのは、公威様のお体でしたもの」
 すまして言う律子だが、内心どうなのだろう。

 私の胸はどきどきしている。公威さんの口から、どんな言葉が出てくるか、苦しいような思いで聞いていた。

「今はだいぶ良くなりましたが、左腕を怪我しましてね」
 公威さんは、話のついでといった調子で、さらりと言った。

「えっ?」
 律子が低い声で答えて、そのあとは沈黙が流れる。

「しばらく療養せよ、と軍から命令もあって、現在は休職扱いなんです。完全に治るかどうかもわからない、半端者扱いのまま軍に残るのもなあ、という状況です」

 頭の中が真っ白だ。
 今回、公威さんの隊が派遣されたのは、軍がシベリアから撤退する後始末、ポーランド人孤児の救出等の活動のためである。

 五年間のシベリア派兵は、当初の平和的な目的から離れて、ロシア革命の混乱から大陸の赤化を恐れた我が国が、兵士を送って監視しているようなもの、と新聞は批判していた。
 そして、シベリア派兵は、パルチザンと呼ばれる農民反乱軍との戦いであった。

「シベリア行きは甘いものではない、とは認識していました。しかし、ロシアがソヴィエト連邦に変わっていく中で、落ち着きを取り戻しつつあり、パルチザンとの戦闘もなくなったと聞いていました。恥ずかしい話ですので、あまり仔細は述べたくないのですが、我々は油断していたのです」

 多くは語らない公威さんだが、おそらくパルチザンから攻撃があり、不運にも負傷したのだろう。

「油断だなんて」
 ようやくの思いで、声を振り絞る。

「公威様は、軍人をお辞めになるおつもりなのですか?」

「一足飛びに、結論を出されてしまったかな」

「違うのですか?」

「軍の学校しか出ていない人間ですので、今後どうしようか、どうするべきか迷っているのです。文子さんと結婚など、とてもじゃないが考えられない状況になってしまいました」

 私とのことで、一足飛びに結論を出しているのは、公威さんのほうではないだろうか。
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