魔風恋風〜大正乙女人生譚

花野未季

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冬のお別れ②

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「障子が新しくなったら、家じゅうが明るくなった気がするわね」
 学校から帰ってきた律子が、そんなことを言う。

「りっちゃん、張り替えたばかりなんだから破らないでよ」
「わかってますって。……小さい頃、よく破いたわね」

「りっちゃんがわざと破って、お母様に叱られたことは、よーく憶えてるわよ」
「あれね。いっとう最初は、わざとじゃなくてたまたま指が入っちゃったの。そしたら、なんか面白くなっちゃって」

 いくつも開けられた小さな穴を見つけた母は、思いのほか律子に対して怒りを露わにした。
「あの時のお母様、怖かったわ。お父様が、障子紙の端っこを花の形に切って、補修してくれたのよ」
「それも憶えてる! 私があんまり泣くので、お父様がお母様を宥めてくれて」

 子供の頃の思い出は、ふと、どうでもいい日常の出来事をきっかけにあふれ出してくる。
「毎日が楽しくて、幸せだったわね、私たち」

「何言ってるの、現在いまもこれからも、ずっと幸せに過ごせますとも!」
 律子の笑顔につられるように微笑み返した。

 翌週、年の瀬も押し迫った日に、私と母、律子と千代は揃って日本橋三越に向かった。
 日本橋三越の正面玄関、ライオン像の前には、人待ち顔の男性がたくさん立っている。ご家族がお買い物しているのを待っているのだろうか、それとも誰かと待ち合わせして、これから買い物に行くのだろうか?

「しばし浮世の憂さを忘れてお買い物しましょうね」
「思ったよりお手当をたくさん頂けたので、色々お買い物したいです」
 母の言葉に頷く千代の顔は紅潮している。
「千代は、よく頑張ったものね」

 デパァトメントの来場客も、洋装姿の人が増えたなと思う。
 律子も同じことを思ったのか、
「職業婦人が増えたのね。世の中は変わったって、学校の先生方はよく仰るけど、それを目の当たりにした感じだわ」
 感心した様子で言う。

 新年用の新しい下着や細々こまごました生活雑貨、晴れ着の飾り襟がお買い得だったので、それも求めて買って、私たちは帰途につく。

 大満足で帰宅した私たちを待っている人がいた。
 それは、なんと公威さんであった。
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