魔風恋風〜大正乙女人生譚

花野未季

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冬のお別れ①

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 もやもやとした気分で過ごす年の瀬。
 ただでさえ、師走というのは落ち着かないものであるが、今年は格別、私だけでなく我が家の全員が、胸騒ぎのような胸のざわつきを覚えている。

 それでも、新しい歳神様をお迎えするに当たっては、女所帯でもきちんと準備しなくてはならない。
 今日は朝から、母と婆やの三人で障子の張り替えをしている。

「障子の張り替えって面倒ね」
 つい、そんな言葉が口をついて出る。

 古い障子紙を剥がし、さんに残る糊を濡らした雑巾で取る。障子の枠が充分乾いてから、新しい糊を塗り、障子紙を貼りつけて終わり。
 簡単ではあるけれど、障子戸の枚数が多いと、意外に手間暇かかるものである。

「本当ね。文子さんとりっちゃんがお嫁に行ったら、もう少し小さなお家に移るつもりなのだけど、でも、家の大きさ関係なく、お手入れはついて回るわね」

 母はそんなことを言い、張り替えたばかりの真っ白な障子の戸を眩しそうに見た。

「今年は、お天気が良い日が続くわね。今週いっぱいお掃除頑張って、来週は新年のお買い物に、みんな揃って三越にでも行きましょうか?」

「奥様、日本橋ですか?」
「ええ。上野松坂屋でもいいけど。どうかしら?」
「歳末の混雑はぞっとしないので、私はお留守番させてもらいます」

 母と婆やが横でそんな話をしている。
 私は、
「少し休憩。お茶を淹れてきますね」
 と立ち上がり、台所に向かった。

 冷えびえとした台所で、お湯を沸かし、水屋からお煎餅の入った菓子器を取り出す。お茶の準備をしていると、私は自分が鼻歌を口ずさんでいるのに気づいてハッとした。

「私って、本当に……」
 どういう事情があるにせよ、公威さんとのご縁談は立ち消えになり、私の行く末は宙ぶらりん。そんな状況で、鼻歌混じりで家事をしている。

「そう、私はお馬鹿さんなの」
 声に出して言ってしまった。
 今の状況に、暗い気持ちになることもあるけれど、『くよくよしても仕方ない、明日はなんとかなるわ』どこか、そんなふうに構えている私である。
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