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お手紙②

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 じりじりした思いで暮らすうちに、暑い夏がそろそろ終わる目処めどが立つ、九月になった。

 公威さんがシベリアに旅立たれてからこっち、私は新聞記事や雑誌の隅々まで、帝国陸軍、特にシベリア駐留の話題が取り上げられていないか、目を皿のようにして読んでいる。

 シベリア撤退は、内々には一年前に決まっていたという。公威さんの隊は駐留民保護、及び撤退の後始末で派遣されたのだ。しかし、それとて危険な任務には違いない。

 公威さんからは相変わらず、お手紙は来ない。
『あちらから手紙を書きます。あなたもお返事を下さい』
 彼はそう言ってくれた。

 しかし、シベリアは遠い。
 お手紙なぞ書く暇もないだろうし、届ける陸路ルートもないのかもしれない。
 私に出来ることは、心配することだけ。

 最近では、国が手配した御用船で、士官や兵士が引き上げて来ているというが、公威さんがいつ帰って来られるのかはわからない。
 婆やは、私の焦慮を可哀想に思ってか、
「こんなことなら、さっさと婚姻届だけでも出しておけば、ようございましたね」
 そんなことまで言う。

「家族なら、真っ先に動向を伝えてくれますものね。……ということは、合原家の方は色々ご存知よね?」
 律子が思いついたように言うが、あんなことがあってから、私たちは合原家と距離を取っているので、聞きに行くこともできない。

「千代も劇場の仕事を辞めてるし、利晴様の噂もめっきり聞かなくなりました。知る術もありませんしねえ」
 婆やが途方に暮れたように言った。

 千代は、先月暑いさなかに、丸の内の女子事務員の仕事を得て、毎日張り切って通い始めている。
 今までのように、夕方の短時間勤務ではなく、仕事は朝から長丁場。
 もう千代は、職業婦人と呼ばれる、私から見ると “眩しい存在” なのだ。

「ただいま戻りました」
 ちょうど、千代の声がお勝手口から聞こえ、しばらくして居間に現れた。
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