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事件⑦

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 必死で顔を背ける私を羽交締めにして、利晴さんは徳利の酒を私に飲ませた。着物に酒がこぼれ、流し込まれた液体に、私はせて咳き込む。

 喉が熱くて痛い!
 苦しむ私の様子を見て、利晴さんは私から手を離した。

 しばらくの間、私は畳に突っ伏していた。
 私と利晴さんの息遣いだけが、静かな部屋に響く。

「すみません、文子さんのようなお嬢さんは、酒など飲んだことはありませんよね」
 それどころではない。他人からそんな手荒な扱いを受けたことなどない私は、激しい衝撃を受けていた。

 うずくまって胸をさすっていたら、
「あなたが悪いのですよ」
 冷ややかな声がして、私は背後から髪の毛を引っ張られる。

「よりによって公威と結婚するだと? 私を手ひどく振っておいて!」
 私は畳に突き倒された。
 何が起きているのかわからないが、とんでもない目に遭っているのは間違いない。

 私の着物の裾を捲ろうとする利晴さんと、抗う私の間で繰り広げられる争い。
 獣の唸り声のような声がする、と思ったが、それは私と利晴さんの声だった。

 不意に利晴さんの手が止まった。
 しかし、次の瞬間、私は彼に平手打ちを受けて呆然となった。その間も、彼は私の着物の裾を割ろうと、膝を私の足の間に割り込ませようとする。

(もう、ダメだ……)
 殴られた痛みと衝撃で、抵抗する気力が萎えてきそうになる。

 しかし、
「公威なんかに、あなたをられてなるもんか!」
 という利晴さんの言葉を聞いた瞬間、私は自然に声が出た。

「公威さん、公威さぁん! 婆や、誰か、誰か来て! 誰か助けて!」
 利晴さんに口を押さえられるが、私は渾身の力を振り絞って、彼の体を押す。

 その時、
「文子さん!」
 公威さんの声が聞こえた気がした。

「合原様、何をしてらっしゃるんです!」
 女性の声がして、私の体から利晴さんが離れて行く気配を感じた。
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