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キネマ会社①

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「まったく……。何が目的で、いつまでうちに関わるおつもりかしら」
 律子は忌々しげに言うが、淡路屋海運の商売を引き継いでもらっている以上、ずっと関係は切れない。

「こんなことなら綺麗さっぱり、うちを畳んでおけばよかったわ」
「綺麗さっぱり?」
「運送を手掛けている会社はたんとあるのだし、合原様いっぽんに纏めてしまったのは悪手だったかも」

 さらに困ったことに、キネマ会社の人が今度は私たちを飛び越えて、女学校の校長先生に律子のことを直談判してきた。
 校長先生は大いに戸惑いつつも、改めて律子の意思を確認してくれたが、律子の学校での立場が微妙になってしまうのは避けられない。

「学級のお友達はみんな、私のお味方でいてくれるんですけど、それ以外の人たちは、あからさまに私を好奇の目で見たり、無視してくる先生までいるんですよ」

 気の強い律子が、しょげ返っている。
「あーあ。もういっそのこと、キネマ女優になろうかしら」
「りっちゃん、それは早計よ」
 母が律子をたしなめる。

「それにしても、キネマ会社の人は、どうしてそんなにしつこいのかしら?」

 私の疑問に、千代が仕事先で仕入れてきた話を教えてくれた。

「劇場の支配人さんに伺ったら、去年発足したばかりの会社で、俳優さんが足りてないみたいです。でも、資本は大きな会社だそうで、一流の演劇人が関わっているとか」

「なるほどね。こうなったら、私が校長先生にお会いして、よくよくお願いしてくるしかないみたいね。ついでに、もう二度とお誘いくださるなって、キネマ会社のほうに直談判にも行きますよ」

 きっぱり言う母に、私はふと思いついたことを提案した。それは、公威さんにご助力をお願いしてはどうか? ということ。

「公威様に? なんでまた」
「立派な帝国軍人さんが間に立ってくだすったら、どんなお商売の人も何も言えなくなるんじゃないかしら?」

「確かに心強いでしょうけど。でも、それって厚かましいお願いじゃなくって?」
 母の眉が八の字になった。
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