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二人きりで出かけるのは初めて①
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ある日のこと、千代が出勤してすぐ、私宛の電報が届いた。
電報は公威さんからだった。
私ははやる胸を押さえ、電報の文字を追う。
いつも、公威さんのお休みの日、一緒に出かけようというお誘いがあるのだが、果たして今回の電報もそうだった。
今まで何度か、銀座に行ったり映画を観に行ったり、少し足を伸ばして上野の公園に行ったりしたが、いつも律子が一緒だった。
「私は、ご一緒するのはやめておくわ」
律子が朗らかに言う。
「どうして?」
「聞くだけ野暮ってものじゃない。お姉様も公威様も、そろそろ二人きりでお出かけしたいでしょ?」
私は返事に困ったが、いつまでも律子について来てもらうのもおかしいとは思っていた。
「でも……」
「つべこべ言わないの。公威様に嫌われる前に、私は引かせてもらいます」
律子は満面の笑みを浮かべている。
約束した日。私はどきどきしながら、公威さんが迎えに来て下さるのを待つ。
お約束の時間きっかりに、
「ごめんください」
公威さんの凛とした、よく通る声が聞こえた。
私は弾むように立ち上がった。
「やあ、文子さん! ……今日もお綺麗ですね」
公威さんは、玄関の上り框に立つ私を、頭のてっぺんから爪先まで見て微笑んだ。
彼の背が高いから、私が一段高いところに立っていても、目線の高さは変わらない。
「ありがとうございます。おめかししてみました」
手持ちの着物は、高級な物は困窮した時に手放してしまって、今は少なくなっている。しかし、それでも、父が買ってくれた大切な着物は何枚も残してあり、その中から今日は、薄紅色の総柄の中振袖を選んで着ていた。
「お召し物じゃなくて、文子さんご自身がお美しいのですよ」
公威さんは、褒め言葉を照れずに堂々と言って下さる。
「律子さんは?」
「りっちゃんは『今日は遠慮します』と言って、出かけてしまいました」
「ああ、そうなんですか。じゃあ、今日は初めて二人きりで出かける記念すべき日ですね」
公威さんは、じっと私の目を見つめてくる。
電報は公威さんからだった。
私ははやる胸を押さえ、電報の文字を追う。
いつも、公威さんのお休みの日、一緒に出かけようというお誘いがあるのだが、果たして今回の電報もそうだった。
今まで何度か、銀座に行ったり映画を観に行ったり、少し足を伸ばして上野の公園に行ったりしたが、いつも律子が一緒だった。
「私は、ご一緒するのはやめておくわ」
律子が朗らかに言う。
「どうして?」
「聞くだけ野暮ってものじゃない。お姉様も公威様も、そろそろ二人きりでお出かけしたいでしょ?」
私は返事に困ったが、いつまでも律子について来てもらうのもおかしいとは思っていた。
「でも……」
「つべこべ言わないの。公威様に嫌われる前に、私は引かせてもらいます」
律子は満面の笑みを浮かべている。
約束した日。私はどきどきしながら、公威さんが迎えに来て下さるのを待つ。
お約束の時間きっかりに、
「ごめんください」
公威さんの凛とした、よく通る声が聞こえた。
私は弾むように立ち上がった。
「やあ、文子さん! ……今日もお綺麗ですね」
公威さんは、玄関の上り框に立つ私を、頭のてっぺんから爪先まで見て微笑んだ。
彼の背が高いから、私が一段高いところに立っていても、目線の高さは変わらない。
「ありがとうございます。おめかししてみました」
手持ちの着物は、高級な物は困窮した時に手放してしまって、今は少なくなっている。しかし、それでも、父が買ってくれた大切な着物は何枚も残してあり、その中から今日は、薄紅色の総柄の中振袖を選んで着ていた。
「お召し物じゃなくて、文子さんご自身がお美しいのですよ」
公威さんは、褒め言葉を照れずに堂々と言って下さる。
「律子さんは?」
「りっちゃんは『今日は遠慮します』と言って、出かけてしまいました」
「ああ、そうなんですか。じゃあ、今日は初めて二人きりで出かける記念すべき日ですね」
公威さんは、じっと私の目を見つめてくる。
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