魔風恋風〜大正乙女人生譚

新しい時代の仕事②

「うちに千代という下働きの子がいるのですけど、短時間でもいいので、外で働きたいみたいなんです」

「ほう？ その方は歳はいくつですか？ 劇場の案内係は１５、６歳くらいの子が多くてね。仕事が単調でつまらないんでしょうかね、みんな短期間で辞めていくようなのです。劇場の支配人は人手不足を補うために、よくいろんなところに声掛けしていましてね」

「藤崎先生。慢性人手不足は、うちの学校もじゃないですか？ 文子さんの後釜を探すのも一苦労でしょうに」
　若田先生がボソっとつぶやくように言った。

「それはそうでした。このご時世、どこも人手が足りないのですよ」
　藤崎先生は苦笑する。

　思わず俯く私に、若田先生が言った。
「文子さん、千代さんにとって良いお話かもしれませんよ。ご紹介して頂いたらどう？」

「そうだね、是非その方を紹介して下さい。後日、私の立ち会いのもとに、劇場の支配人にお引き合わせしますよ」

　藤崎先生のお言葉に頷いて、お礼を言う。
　その後、家に帰ってすぐ、母と千代にそのことを告げてみたところ、千代の目が輝いた。
　母も、先日とは打って変わって嬉しそうである。

「藤崎先生のご紹介なら、支配人の方に、よくお願いしておけば大丈夫よね？」
「ええ。もちろん、不届者はどこの世界にもいるのでしょうけど、嫌ならすぐ辞めても構わないと思うの」
「そうなの？」
「単調な仕事のせいか、中々人が定着しない職場みたい」

「奥様、お嬢様、そこで働かせて下さい！ 私、お家のお仕事も頑張ります。でも、少しでも外で働いてみたいんです！」
　千代は、畳に両手をついて、額を擦り付けんばかりにしている。