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湯島天満宮
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家から湯島天満宮までは、地下鉄に乗り、しばらく歩かなければならない。
湯島に来てみると、土曜の午後だからか観梅に訪れているらしき人が多かった。
「もう満開なんじゃないかしら、お姉さま」
律子の弾んだ声を聞くまでもなく、道路から見える境内の梅の花は、どの木も満開である。
「綺麗ねえ。思ってたより華やか」
「桜に比肩する美しさよね」
「こんなに咲いてると、香りもすごいのね」
私たちが見惚れていると、
「あの、こ、こんにちは」
と、背後から男の人の声がする。
振り向くと、いかにも書生さんといったいでたちで、今西さんが立っていらした。
「今西さん? ですよね。その節はどうも」
私がお辞儀すると、今西さんは頭を掻きながら、
「まじか……。お二人がほんまに来て下さるとは思ってなかったです」
そんなことを言うではないか。
「え? でも、りっちゃんとお約束してくれたんですよね?」
戸惑ったように言う私に、今西さんが照れたように答える。
「はい。もちろん、僕としてはお二人と一緒に東京を散策できたらなあ、と思っていたわけですが」
彼はさらに、こんなことを言った。
「そんなん実現するはずないよなあ、とかも考えてたんです」
「どうして?」
律子が無邪気に聞く。
「お二人のような麗人が、僕みたいな冴えない学生の誘いに乗ってくださるなんて信じられないです」
「まあ! 面白いことを言うんですね」
律子は笑い転げた。
今西さんの照れ笑いする姿は、困っているように見える。
湯島に来てみると、土曜の午後だからか観梅に訪れているらしき人が多かった。
「もう満開なんじゃないかしら、お姉さま」
律子の弾んだ声を聞くまでもなく、道路から見える境内の梅の花は、どの木も満開である。
「綺麗ねえ。思ってたより華やか」
「桜に比肩する美しさよね」
「こんなに咲いてると、香りもすごいのね」
私たちが見惚れていると、
「あの、こ、こんにちは」
と、背後から男の人の声がする。
振り向くと、いかにも書生さんといったいでたちで、今西さんが立っていらした。
「今西さん? ですよね。その節はどうも」
私がお辞儀すると、今西さんは頭を掻きながら、
「まじか……。お二人がほんまに来て下さるとは思ってなかったです」
そんなことを言うではないか。
「え? でも、りっちゃんとお約束してくれたんですよね?」
戸惑ったように言う私に、今西さんが照れたように答える。
「はい。もちろん、僕としてはお二人と一緒に東京を散策できたらなあ、と思っていたわけですが」
彼はさらに、こんなことを言った。
「そんなん実現するはずないよなあ、とかも考えてたんです」
「どうして?」
律子が無邪気に聞く。
「お二人のような麗人が、僕みたいな冴えない学生の誘いに乗ってくださるなんて信じられないです」
「まあ! 面白いことを言うんですね」
律子は笑い転げた。
今西さんの照れ笑いする姿は、困っているように見える。
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