魔風恋風〜大正乙女人生譚

花野未季

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気持ちも新たに

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 結婚のばたばたが終わり、迎えた正月。
 私は新年を迎える気分ではなかった。
 何か、胸の奥がぽっかりと穴が開いたようで。女学校も結局、中途で辞めてしまったので、することもなく気が滅入るだけな日々である。

「こんなことなら、あと少しだったのだし、女学校を続けておけばよかったわ」
 ため息交じりに呟く私に、母が慰めるように言う。
「文子さん、ため息なんて吐いてる場合じゃありませんよ。気持ちも新たに前に進まなくては」

 母は立ち上がり、居間の障子を開けた。
 正月の麗らかな陽ざしが部屋に入ってきて、私の向かいに座っていた律子は目を細める。

「それにね、ため息を吐くと嫌なものが寄ってくる、って昔から言いますよ。あなたもりっちゃんも若くて美しいんだから、邪気をはね除ける力があります」
 私たちのほうを振り返った母は笑顔である。

「そうね、お母様、私は勉強を頑張って絶対に女性記者になります」
 律子の言葉に、
「新年の誓いね、私は」
 なんとなく相槌を打ったが、そのあとの言葉が続かない。
「ゆっくりでいいんですよ」
 おやつとお茶を運んできてくれた婆やが言う。

「本家の奥様から頂いたお菓子でございます」
 本家のおば様に、ご挨拶に伺った時に頂いた和菓子は、松竹梅の形の練り切りである。
 破談に終わった合原家とのご縁、その顛末を報告に行ったときのことだ。

「取手のおじ様から聞きましたよ。なんて事をしてくれたって、うちの人はカンカンでしたけど」
 おば様の言葉に、私と母は小さくなる。

「でも、私は天晴れと言いたかったの」
「え?」

「まだ若いうちから女を囲って、あまつさえ妾に子供まで産ませて。そんな男、気持ち悪いじゃありませんか」
 おば様は顔をしかめて利晴様の悪口をひとしきり言った後、「でね」と口調を変えた。

「文子さんと律子さんに紹介したい男性がいるの。ああ、縁談ではないのよ。まだ、そんな気持ちになれないでしょうし」

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