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公威さんは語る②

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「そこから口論になりましてね。で、こうなったわけです」
 公威さんは、目の下の痣を人差し指で押さえ、「いてて」と顔をしかめた。

「本当にご迷惑をおかけして、申し訳ございません」
 頭を下げる母に、公威さんはきっぱりと言った。
「いや、私が兄を怒らせるようなことばかり言っちまったせいなんですよ」

 彼は「いただきます」と小声で呟き、お茶をごくりと飲んだ。

 母が、突然、
「こんなことをご相談するのはおかしいんですけれど」
 と言って、合原家との話し合いの内容を説明し始めた。

 母の話を聞く公威さんの顔がみるみるうちに険しくなっていく。
「それはひどい。わかりました、私に任せて下さい。その提案は、中田老人の入知恵いれぢえというか、彼の独断かもしれません。彼は、兄を守ることだけを考えて生きているような人ですからね」

「そうなんですか?」

「こんな話が通ると思っているのか? 文子さんに対して失礼すぎる申し出じゃないですか……。あくまで商売に関係することだけを、きちんと文書に認めてしたためて、それで終わりです。私から兄に言っておきましょう」

 公威さんは、『今から官舎に帰るつもりだったが、もう一度家に戻って話し合いをします』と仰る。

「まだしばらくは商売の関係上、ご縁は切れないと思います。こんなことになってしまって残念ですが、兄は皆さんを騙すつもりなど無かったことだけは信じて下さい。ひねくれ者の私と違って、兄は真っ直ぐな性質たちの、いい奴なんですよ。文子さんを大事にして、幸せに出来たはずだ。今日、私がこちらに伺ったのは、そのことをお伝えする為でした」

 見送りに出た私たち一家に、体をふたつに折るほど深いお辞儀をして、公威さんは帰って行かれた。

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