魔風恋風〜大正乙女人生譚

花野未季

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雪が

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 そうこうしているうちに、隣室が賑やかになって、ご親族の方々が揃ったことがわかった。

 うちからは、縁談をまとめて下さった取手のおじ様と本家のおば様、母と律子。合原家からも、利晴様のご両親は既にいらっしゃらないので、父方の叔父様ご夫妻と、母方のご兄弟が三人。それと、昨日お会いした公威さんという弟さんがお見えになるだけらしい。

 昨日の華やかなホテルでの披露パーティーとは打って変わって、ささやかで落ち着いた宴。大きな商家の割には、こじんまりとした披露宴ではあるが、どこのお家もそんなものなのだ。

 しかし、内証奥向きに入る私は、お身内こそ大切にしなくてはならない。さらに言えば、さっきの女衆さん達のような内証台所で働いてくれる人達と上手くやっていかなくてはならないのだ。

 正直、不安だらけ。
 さっきのような内証話ないしょばなしを聞いてしまったら、特に。

 襖が開いて、中田さんが満面の笑みを浮かべて入ってらした。彼の後ろには利晴様が。
「文子様、お待たせいたしました。さあ、ご一緒に参りましょう」
 利晴様は微笑んでいるが、少し緊張しているご様子。

 利晴様にいて静々と歩く。
 彼の背中を見つめていると、突然さっき女衆さんに言われた『金で買われたようなもの』という言葉が浮かんできた。

「雪が」
 利晴様の呟きが聞こえた。私は顔を上げ、中庭のほうを見る。

 ちらちらと舞い落ちる細雪。
「これは積もりそうですなあ」
 中田さんが答えた。

「静かだなと思ったら、雪が降ってきましたね」
 誰にともなく言う利晴様。
 私の憂いも悩みも全て、雪がかき消してくれたらいいのに、と思った。

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