魔風恋風〜大正乙女人生譚

花野未季

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まるで出陣

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 利晴様が出ていかれるのと入れ違いに、母が控えの間に戻って来た。
 母は彼の背を見送るようにしてから襖を閉め、急き込むように尋ねてくる。
「文子さん、で?」

 私は首を横に振った。
「お妾さんとお子さんのことは本当でした」
「そう。覚悟はしていたけれど」

 母は大きくため息をいた。
 私が利晴様の考えを話すと、母の顔は見る見るうちに強張こわばっていく。

「とにかく、全ては今日の婚礼を無事に済ませてからですね」
「でも、文子さん、結婚後はなんだかんだと丸め込まれてしまいますよ。決断するなら今です」
「決断するなら今?」

「妾と子供の存在は受け入れ難いけど、既に居るのだから諦めるしかない。でも、子供を引き取って育てろ、なんて馬鹿にするにも程があります。利晴様がそんなことを考えていらっしゃるなら、もうこの結婚は無しにしてもらいます」

「でもお母様、淡路屋海運を買い取って頂ける上、我が家のことも大事にします、とまで利晴様は言ってくれました。今更、否やも無いでしょう」

「じゃあ、あなたは合原家に嫁ぐということでいいの?」
「それが一番いいみたい」

「子供はどうするの?」
「ゆっくり考えてみます」

 母は項垂うなだれて、「ごめんなさい」と小声で呟いた。

「お母様が謝られることじゃないわ。私達が世間知らずすぎたのね。一番世間知に疎いはずのりっちゃんが、一番しっかりしてたなんて面白いわね。……さあお母様、出陣です」

 私は明るく言って立ち上がった。
 本当は辛くて苦しくてたまらない。明るく振る舞っていないと、泣き出してしまいそうだ。

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