31 / 144
性急なご縁談には
しおりを挟む
結局、話はうやむやなまま終わり、ミツさんという人は帰って行った。
その後、帰宅した私達は、居間で寛ぐ母と律子に控室での出来事を話した。
母は当初、ご機嫌な様子で火鉢の前に陣取っていたが、私達の話を聞くうちに、見る見るうちに怖い顔になっていく。
「嘘でしょう?」
母はあやふやな笑顔を浮かべて言うが、私達三人の重苦しい様子に黙り込んでしまった。
「折を見て、利晴様ご自身が私に話してくれる、って言うのだけど」
「折を見てって、もう取引先の方をはじめ、主だった方々にはお披露目してしまったじゃないの! しかも、明日は身内での本当の婚儀。一体いつ、ご説明されるつもりだったのかしら!」
火鉢の灰に、母が火箸をグサグサと何度も刺す。
「お母様、お姉様、だから言ったでしょう? 性急なご縁談は」
「りっちゃんは黙ってて!」
母がヒステリックに叫ぶ。こんな母を見るのは初めて。
「奥様、どうしたらいいのでしょう?」
「どうもこうも」
母は頭を抱えている。
「お母様、明日、私は利晴様に直接伺ってみます」
「お嬢様、利晴様からご説明があるまで、こちらからは何も言わないほうがいいんじゃないでしょうか?」
婆やは私にそう言うが、聞いてしまった以上、早く本当のことが知りたい。なんなら、今からお話を聞きに伺いたいくらい!
「文子さん、でも隠し子がいたところで、今更あなたは引き返せないのよ」
「えっ?」
「もう、あなたが合原家に嫁ぐことは世間に知られています。今から結婚をやめたとしても、あなたは一度嫁いでしまったも同じこと」
「ひどい! お母様、なんてことを仰るの!」
律子が叫び、千代は泣き出した。
唇を噛み締めている母の頬には、幾筋も涙が伝っている。
母が悔しそうに言葉を絞り出す。
「女だけだからって馬鹿にして!」
その後、帰宅した私達は、居間で寛ぐ母と律子に控室での出来事を話した。
母は当初、ご機嫌な様子で火鉢の前に陣取っていたが、私達の話を聞くうちに、見る見るうちに怖い顔になっていく。
「嘘でしょう?」
母はあやふやな笑顔を浮かべて言うが、私達三人の重苦しい様子に黙り込んでしまった。
「折を見て、利晴様ご自身が私に話してくれる、って言うのだけど」
「折を見てって、もう取引先の方をはじめ、主だった方々にはお披露目してしまったじゃないの! しかも、明日は身内での本当の婚儀。一体いつ、ご説明されるつもりだったのかしら!」
火鉢の灰に、母が火箸をグサグサと何度も刺す。
「お母様、お姉様、だから言ったでしょう? 性急なご縁談は」
「りっちゃんは黙ってて!」
母がヒステリックに叫ぶ。こんな母を見るのは初めて。
「奥様、どうしたらいいのでしょう?」
「どうもこうも」
母は頭を抱えている。
「お母様、明日、私は利晴様に直接伺ってみます」
「お嬢様、利晴様からご説明があるまで、こちらからは何も言わないほうがいいんじゃないでしょうか?」
婆やは私にそう言うが、聞いてしまった以上、早く本当のことが知りたい。なんなら、今からお話を聞きに伺いたいくらい!
「文子さん、でも隠し子がいたところで、今更あなたは引き返せないのよ」
「えっ?」
「もう、あなたが合原家に嫁ぐことは世間に知られています。今から結婚をやめたとしても、あなたは一度嫁いでしまったも同じこと」
「ひどい! お母様、なんてことを仰るの!」
律子が叫び、千代は泣き出した。
唇を噛み締めている母の頬には、幾筋も涙が伝っている。
母が悔しそうに言葉を絞り出す。
「女だけだからって馬鹿にして!」
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~
橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。
記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。
これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語
※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります
独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立
水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
織田信長IF… 天下統一再び!!
華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。
この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。
主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。
※この物語はフィクションです。
大東亜戦争を有利に
ゆみすけ
歴史・時代
日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
独孤皇后物語~隋の皇帝を操った美女(最終話まで毎日複数話更新)
結城
歴史・時代
独孤伽羅(どっこ から)は夫に側妃を持たせなかった古代中国史上ただ一人の皇后と言われている。
美しいだけなら、美女は薄命に終わることも多い。
しかし道士、そして父の一言が彼女の運命を変えていく。
妲己や末喜。楊貴妃に褒姒。微笑みひとつで皇帝を虜にし、破滅に導いた彼女たちが、もし賢女だったらどのような世になったのか。
皇帝を操って、素晴らしい平和な世を築かせることが出来たのか。
太平の世を望む姫君、伽羅は、美しさと賢さを武器に戦う。
*現在放映中の中華ドラマより前に、史書を参考に書いた作品であり、独孤伽羅を主役としていますが肉付けは全くちがいます。ご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる