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来訪者

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 そんなある日のこと、我が家に来訪者があった。
 それは、合原家の執事を勤める中田さんという男性だった。彼はかなりのご高齢で、
「執事などという堅苦しい身分じゃございません。この通り、まともな言葉遣いも出来ない親爺でございます」
 と笑った。

 ご老人は、滔々とうとうと、ご自分のこれまでと合原家との関わりを語った。中田さんは、利晴様のお父上が子供の頃から合原家で働いていると言う。

「私自身は、江戸で小商いをしていた貧しい出ですが、ご縁がありまして合原様に奉公に出ました」
 まるで落語や講談を聞いているような彼の口調に、私も母も婆やも、相槌を打つのも忘れて聞き入ってしまった。

「坊っちゃまは、私が言うのもなんですが、ご立派な方です。先代も立派な方ですが、いや、坊っちゃまには正直敵いませんな」
 そこで彼はふう、と息を吐いた。

「お嬢様には、安心して身ひとつでおいで下さい、との坊っちゃまからのご伝言でございます」

 中田さんは、一方的に話を終えて帰って行った。
 帰り際に、彼は母にお手紙を渡してきたが、それは今回の結納の日取りが書かれたものであった。

「型破りだわ」
 母と婆やは呆気に取られている。
 仲人である青山様を通すことなく、さっさと当事者から直に、結納のことを告げてくるのは珍しいというか、あり得ないことのようだ。

 その夜、いつものように律子と同じ部屋で布団にくるまっておしゃべりしていた時、律子が妙なことを言い出した。

「昼間のご老人のことですけど、おかしくないかしら?」

「おかしい?」

「ええ! お母様と婆やから聞かされただけで、私はお目にかかってはいないけど、変だわ」

 律子によると、合原家がとにかく結婚を焦っているような気がする、とのことだった。

「まさか、合原様のおうちも意外とお商売が上手く行ってなくて、うちを乗っ取りたいとか? それか、利晴様に何か重大な秘密があって、バレる前になんとかしようとしているとか?」

「りっちゃん、よくそんなことを思いつくわねえ」

 私は律子の想像力に感心しつつ、内心とても不安になってきた。

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