魔風恋風〜大正乙女人生譚

花野未季

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律子の思い

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 衣装部屋で、私は振袖を脱いで普段着に着替える。
 千代が衣紋掛けに振袖を掛けていると、「お姉様」と声がして、律子がうつむき加減に入って来た。

「お姉様、ご結婚するの?」
「え? そうね。そうなるわね」
「いいの?」
「いいか悪いかは関係ないの。おうちのことを思うと、私が合原様に嫁ぐよりほかにないと思うの」

「ふうん。お姉様が、そんなご結婚を選ぶなんて」
 律子は不服げである。
「そんなって。りっちゃんだって、あと四年もしたら、どこかにお嫁に行かなくてはならないのよ」
「えー! いやだなあ」

「いやって言っても」
「お姉様、私、働きたいの」
「え? 律子様が」
 私より先に千代が反応した。

「おうちが大変な時だから、いっそのこと女学校を辞めて働きに出るほうがいいんじゃないかなって」
 千代は口をパクパクさせている。とても驚いたのだろう。

「働くってどこで?」
 私も驚いていたけれど、律子の話も一応は聞いてみなくては。

「私ね、新聞記者になりたいの」
「新聞記者!」
 ようやく声が出た、といった雰囲気で千代が叫んだ。

「新聞記者になるなんて、よほどの伝手つてと教養がなければ無理よ。それならなおのこと、女学校でしっかり勉強しなさい」

「新聞社で、まずは見習いをするのが記者になる早道だと思うの。女学校なんて行ってる場合じゃないの」
 熱心に言う律子に、噛んで含めるように言ってみた。
「私は反対よ。とにかく今は一所懸命勉強して、女子大に進学なさい。それが立派な記者になる早道よ」

「女子大? どこにそんな余裕があるの?」
 私は一瞬、うっと言葉に詰まった。でも今なら言える。
「私が合原様と結婚したら、援助があります」
 今度は律子が言葉に詰まる番だ。

「そんな。他人様ひとさまの施しを受けるような生活、私はいや! 断じていやなの!」
 律子は激しく言って、そのまま部屋を出て行く。ピシャッと音を立てて襖が閉じられた。
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