魔風恋風〜大正乙女人生譚

花野未季

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お話を進めましょう

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 帰りは、合原家のお出入りの自動車ハイヤーを使わせていただいた。
 車に乗る時、
「ではまた」
 利晴様は、それだけ仰って私に向かって頷かれていた。

 車中ではずっと無言だった母が、家に到着するなり訊ねてきた。
「で、二人でどんなお話をしたの? 利晴様のご様子はどうだったの?」
「どうって」

 利晴様が緊張していらしたように思ったことは、何故か内緒にしたほうがいいような気がした。というよりも内緒にしておきたかった。

「文子さん、あなたには悪いけれど、この縁談おはなしはお断りできないの。実はもうおば様が、『早急に進めるように先方に話しておきます』って仰っているの」

 私が返事しないので、母は悲しそうに言った。
「本当にごめんなさい。お父様が御存命でいらしたら、きっと私たちは叱られるでしょうね。文子の気持ちも聞かずに、勝手に縁談を進めるとは!って」

 私が黙っていたのは、おそらくそうなのだろうなという気持ちと、不服ではないという気持ちから。そして、利晴様のことを憎からず思う気持ちがまさっていたからである。

 そんな私の態度が不審に思えたのか、母は優しく「さ、お着替えなさい」と言った。
 そして、ちょうど出迎えに来た千代に声を掛ける。
「文子さんの着替えのお手伝いをしてあげて。今日は晩御飯はゆっくり目にしましょう。私、お菓子をいただいて、お腹いっぱいなの」
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