魔風恋風〜大正乙女人生譚

花野未季

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シュークリーム

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 おば様の、お歳に似合わぬ可愛い反応は微笑ましく感じられた。

 うちは、亡くなった父をはじめとして母も、更に両方の祖父母も、いわゆる食道楽のたぐいに分類される人たちだった。だから、西洋伝来の新しい食べ物を見つけたら、すぐに誰かが手に入れてくれたりして、我が家の食卓はいつも潤っていた。

 発売されたばかりの、このお菓子は見たことはあったが食べたことはなかったので、私はお見合いの席ということを一瞬忘れ、わくわくしてしまう。

「せっかくだから、お話するより先に頂きましょうか」
 利晴様がそう仰ると、お皿を眺めながらおば様が言う。
「でも食べにくそうですわね、これ」
「本当に。どうやって頂きましょうか」
 母が相槌を打つ。

「ナイフとフォークを使うのだろう」
 青山様がそう仰るなり、デザートナイフでシュークリームの真ん中を切ったが、黄色いクリームが飛び出して、皿を盛大に汚してしまった。

「これは困ったな」
 青山様が困惑したようにつぶやくと、
「ナイフやフォークが用意セッティングされているのが悪いんですよ」
 利晴様は私たちを見回す。

「手づかみで」
 彼は大きく口を開け、お菓子にかぶりついた。
「うん、これは美味い」
 むしゃむしゃと美味しそうに食べている。

 私がその姿に見惚れていると、「さあ、文子さんも」と仰ったので、私は焦って俯いた。
 初めてお会いする男性の前で、手づかみで物を食べるなんて恥ずかしい。それも素敵な方の前で。

「そうでございますわね。手でそのまま食べればよろしいのね! さあ、皆さん」
 おば様にも勧められ、仕方なく私はシュークリームを手に取った。思い切ってひとくちかじると、ほろほろと口中いっぱいに甘味が広がった。
 ペーパーナプキンで口の周りを拭い、続けてもうひとくち。気がつくと完食していた。

 お茶を飲んでほっとしたところで、利晴様が仰った。
「なかなか良い食べっぷりですね。文子さんは素敵なお嬢様だ」
 あっ! となって、顔から血の気の引く思いがする。

 チラリと横を見ると、母がげんなりしたような表情で私を見ている。しまった……。
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