30 / 41
管弦の遊び
しおりを挟む
山蔭卿が答える前に、
「もちろん管弦の遊び、やってもらいますよ。私は、これを一番楽しみにしていました」
北の方が答えた。
そして、北の方は大蔵に目配せする。大蔵は頷いて、女房たちに何やら命じた。
「私が鼓をやります。あとは、和琴と琵琶、笙かしら」
「姑上さま、私が琵琶を弾き、にのさまが笙を吹きます。鉢かぶりどのには、和琴をお任せしたいわ!」
「えっ!」
北の方が驚いたのには理由があった。
(和琴は、一曲仕上げるのに相当年季を入れて練習しなくてはならない。それを何処の馬の骨ともわからない、下賤な鉢かぶりにやらせるなんて無理な注文というものだわ)
迷っているような北の方に気付かぬ振りで、
「さ、始めましょう」
と、さっさと主殿の広間中央に、いっちひめとにのさまは進み出て行く。
そこには、大蔵の指示で女房たちが既に楽器を用意していた。
「さ、鉢かぶりどの、和琴の前に」
いっちひめは姫に命じた。有無を言わさぬその態度に、全員が緊張する。
(和琴なら、お母さまに厳しくしつけられたから多少の自信はある。でも、ここで腕前を披露するのは、あまりに偉そうかしら)
姫が逡巡しているのを、逆の意味に受け取ったいっちひめとにのさまは、意地悪そうに姫を見ている。
(さて、鉢かぶりは何て言って断るかしら。その綺麗な顔が泣き顔になるのが楽しみ!)
「ぐふっ」
思わず笑い声が漏れて、慌てて口元を押さえたいっちひめである。
(わかりやっす!)
見物席にいる明石は吹き出しそうになった。
義姉さま方は、鉢かぶりどのを笑い者にしようとしているのだな。あんなに高貴な方々でも、やることや考えることは下品なもんだなあ。
宰相君は、はらはらしていた。
(和琴なら得意だから、姫の代わりに私が弾いてやってもいいのだが)
彼が中腰になった時、姫は宰相君のほうを見て微笑んだ。
姫の表情は、自信たっぷりに見えた。
「もちろん管弦の遊び、やってもらいますよ。私は、これを一番楽しみにしていました」
北の方が答えた。
そして、北の方は大蔵に目配せする。大蔵は頷いて、女房たちに何やら命じた。
「私が鼓をやります。あとは、和琴と琵琶、笙かしら」
「姑上さま、私が琵琶を弾き、にのさまが笙を吹きます。鉢かぶりどのには、和琴をお任せしたいわ!」
「えっ!」
北の方が驚いたのには理由があった。
(和琴は、一曲仕上げるのに相当年季を入れて練習しなくてはならない。それを何処の馬の骨ともわからない、下賤な鉢かぶりにやらせるなんて無理な注文というものだわ)
迷っているような北の方に気付かぬ振りで、
「さ、始めましょう」
と、さっさと主殿の広間中央に、いっちひめとにのさまは進み出て行く。
そこには、大蔵の指示で女房たちが既に楽器を用意していた。
「さ、鉢かぶりどの、和琴の前に」
いっちひめは姫に命じた。有無を言わさぬその態度に、全員が緊張する。
(和琴なら、お母さまに厳しくしつけられたから多少の自信はある。でも、ここで腕前を披露するのは、あまりに偉そうかしら)
姫が逡巡しているのを、逆の意味に受け取ったいっちひめとにのさまは、意地悪そうに姫を見ている。
(さて、鉢かぶりは何て言って断るかしら。その綺麗な顔が泣き顔になるのが楽しみ!)
「ぐふっ」
思わず笑い声が漏れて、慌てて口元を押さえたいっちひめである。
(わかりやっす!)
見物席にいる明石は吹き出しそうになった。
義姉さま方は、鉢かぶりどのを笑い者にしようとしているのだな。あんなに高貴な方々でも、やることや考えることは下品なもんだなあ。
宰相君は、はらはらしていた。
(和琴なら得意だから、姫の代わりに私が弾いてやってもいいのだが)
彼が中腰になった時、姫は宰相君のほうを見て微笑んだ。
姫の表情は、自信たっぷりに見えた。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
契約結婚のはずなのに、冷徹なはずのエリート上司が甘く迫ってくるんですが!? ~結婚願望ゼロの私が、なぜか愛されすぎて逃げられません~
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「俺と結婚しろ」
突然のプロポーズ――いや、契約結婚の提案だった。
冷静沈着で完璧主義、社内でも一目置かれるエリート課長・九条玲司。そんな彼と私は、ただの上司と部下。恋愛感情なんて一切ない……はずだった。
仕事一筋で恋愛に興味なし。過去の傷から、結婚なんて煩わしいものだと決めつけていた私。なのに、九条課長が提示した「条件」に耳を傾けるうちに、その提案が単なる取引とは思えなくなっていく。
「お前を、誰にも渡すつもりはない」
冷たい声で言われたその言葉が、胸をざわつかせる。
これは合理的な選択? それとも、避けられない運命の始まり?
割り切ったはずの契約は、次第に二人の境界線を曖昧にし、心を絡め取っていく――。
不器用なエリート上司と、恋を信じられない女。
これは、"ありえないはずの結婚"から始まる、予測不能なラブストーリー。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
女嫌いな騎士団長が味わう、苦くて甘い恋の上書き
待鳥園子
恋愛
「では、言い出したお前が犠牲になれ」
「嫌ですぅ!」
惚れ薬の効果上書きで、女嫌いな騎士団長が一時的に好きになる対象になる事になったローラ。
薬の効果が切れるまで一ヶ月だし、すぐだろうと思っていたけれど、久しぶりに会ったルドルフ団長の様子がどうやらおかしいようで!?
※来栖もよりーぬ先生に「30ぐらいの女性苦手なヒーロー」と誕生日プレゼントリクエストされたので書きました。
大好きだけど、結婚はできません!〜強面彼氏に強引に溺愛されて、困っています〜
楠結衣
恋愛
冷たい川に落ちてしまったリス獣人のミーナは、薄れゆく意識の中、水中を飛ぶような速さで泳いできた一人の青年に助け出される。
ミーナを助けてくれた鍛冶屋のリュークは、鋭く睨むワイルドな人で。思わず身をすくませたけど、見た目と違って優しいリュークに次第に心惹かれていく。
さらに結婚を前提の告白をされてしまうのだけど、リュークの夢は故郷で鍛冶屋をひらくことだと告げられて。
(リュークのことは好きだけど、彼が住むのは北にある氷の国。寒すぎると冬眠してしまう私には無理!)
と断ったのに、なぜか諦めないリュークと期限付きでお試しの恋人に?!
「泊まっていい?」
「今日、泊まってけ」
「俺の故郷で結婚してほしい!」
あまく溺愛してくるリュークに、ミーナの好きの気持ちは加速していく。
やっぱり、氷の国に一緒に行きたい!寒さに慣れると決意したミーナはある行動に出る……。
ミーナの一途な想いの行方は?二人の恋の結末は?!
健気でかわいいリス獣人と、見た目が怖いのに甘々なペンギン獣人の恋物語。
一途で溺愛なハッピーエンドストーリーです。
*小説家になろう様でも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる