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嫁比べ始まる!
しおりを挟む夜が明けて、いよいよ “ 嫁比べ ” の時間となった。
開始時刻きっかりに現れたのは、長男の嫁である通称 “ いっち姫 ”である。歳の頃は20歳過ぎであろうか。背丈より長い黒髪は輝き、すっきりとした顔立ちは、声をかけるのも憚られるような美しさ。
静々と席に着いた彼女が携えてきた持参金である引出物は、珍しい唐綾10疋と、白小袖が10枚。
姑に当たる山蔭卿の北の方は、満足そうに頷いた。
続いて現れたのは、次男の嫁。通称 “にのみや姫 ” 。彼女も、いっち姫様に勝るとも劣らない美貌の持ち主である。背丈に僅かに届かない緑の黒髪は、輝いて光を放つほど。
彼女が持参したのは小袖30枚。
母上は、再び満足そうに頷いた。
最後に現れた三男の嫁御、通称 “ さんの姫 ” 様は兄嫁たちに比べ、まだ若く愛嬌のある雰囲気を漂わせている。
彼女が持参した染物30反は、いかにも高価そうで、母上は大きく頷いて微笑んだ。
見物客たちは、三人の嫁御のいずれ劣らぬ美貌や引出物の見事さに、感嘆の声を上げ続けている。
屋敷の下人たちは、
「今、見ているのは現であろうか? 夢ではないだろうか?」
「あの世に良い土産話ができましたわ」
「それにしても、姫様たちの美しさは驚くばかりじゃ」
興奮して、口々に言い募るのであった。
いよいよ次に現れるのは、“ 鉢かぶり ” 。
見物客たちは、下衆下衆しい興味で、内心わくわくしていた。
「鉢かぶりは、どんなみっともない姿で現れるのか?」
「単衣の粗末な破れ衣で来るしかないではないか?」
「そもそも、あの見た目では、恥ずかしさで来られるわけないだろう」
姫に用意されているのは、3人の兄嫁たちの席と違い、一段低い場所に破れ畳を敷いたものである。
山蔭卿は思った。
(面白き催しと思ったが、いざ始まったらひどく下品で、残酷な催しのような気がしてきたぞ)
……と。
【註】
唐綾)中国から伝わった模様を表すように織った布、綸子のようなもの
疋)反物2反
反)1人分の衣服を作るのに必要な布の大きさ
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