14 / 41
きぬぎぬ
しおりを挟む一晩中、宰相君から愛された姫は、しらじらと夜が明けてくる頃、ようやくうとうとし始めた。
しかし、すぐに彼女は、鶏の鳴き声で起こされてしまう。
起き上がろうとしたが、背中から硬い鋼のような宰相君の腕に絡め取られて身動きできない。
「宰相君さま、どうぞお手をお放しください」
消え入るような声で姫は囁いた。
「んー」
宰相君は眠そうに呟いて、姫を抱く手に一層力を込める。
「私は湯殿に参らなくてはならないのです。どうか、そのお手を」
宰相君は、夢見心地で姫の声を聞いていた。甘くたおやかな声を聞いて、宰相君は恥ずかしいことに、また力が漲ってくるのを感じていた。
「可愛い人、もう一度だけ抱かせて下さい」
宰相君の手は、遠慮なく姫の体を蹂躙し始める。
(困ったわ! 早くこの手を振り解いて、お勤めに行かなくては、お役人さまに叱られる)
しかし、昨夜のことを思い出すと、姫は恐怖に震えた。
(また襲われたりしたらどうしよう。いいえ、それよりも『恥をかかされた』と、お役人さまは怒っているに違いない)
姫はあれこれ考えて、身の置き所のない気持ちである。
「どうしたのです? お願いだ、あなたの可愛い声を、喜びに震える声を聞かせて」
姫の煩悶に気付かぬ様子で、宰相君は熱っぽく語りかけてくる。姫は困り果てていた。
「宰相君さま、朝早くから失礼いたします」
若い男の声と共に、ドスドスと床を踏んでこちらに向かってくる音がした。
足音は几帳の前で止まり、男は結構な大声で言った。
「お湯係の鉢かぶりがいない、と皆が騒いでおりまする。昨晩、役人のひとりがその者に狼藉を働いたらしく。宰相さまがその場にいらしたとのこと、何か事情をご存知では? と思いまして、朝早くから罷り越した次第」
宰相君は姫を愛撫する手を止めて起き上がり、姫に薄衣の被り物をそっと掛けた。それから彼は几帳をずらし、
「狼藉を働いたのは私だよ」
と含み笑いしながら言う。
「え?」
明らかに動揺した声で答えたのは、明石左馬介であった。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
クソつよ性欲隠して結婚したら草食系旦那が巨根で絶倫だった
山吹花月
恋愛
『穢れを知らぬ清廉な乙女』と『王子系聖人君子』
色欲とは無縁と思われている夫婦は互いに欲望を隠していた。
◇ムーンライトノベルズ様へも掲載しております。
【R18】国王陛下はずっとご執心です〜我慢して何も得られないのなら、どんな手を使ってでも愛する人を手に入れよう〜
まさかの
恋愛
濃厚な甘々えっちシーンばかりですので閲覧注意してください!
題名の☆マークがえっちシーンありです。
王位を内乱勝ち取った国王ジルダールは護衛騎士のクラリスのことを愛していた。
しかし彼女はその気持ちに気付きながらも、自分にはその資格が無いとジルダールの愛を拒み続ける。
肌を重ねても去ってしまう彼女の居ない日々を過ごしていたが、実の兄のクーデターによって命の危険に晒される。
彼はやっと理解した。
我慢した先に何もないことを。
ジルダールは彼女の愛を手に入れるために我慢しないことにした。
小説家になろう、アルファポリスで投稿しています。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
俺の妖精すぎるおっとり妻から離縁を求められ、戦場でも止まらなかった心臓が止まるかと思った。何を言われても別れたくはないんだが?
イセヤ レキ
恋愛
「離縁致しましょう」
私の幸せな世界は、妻の言い放ったたった一言で、凍りついたのを感じた──。
最愛の妻から離縁を突きつけられ、最終的に無事に回避することが出来た、英雄の独白。
全6話、完結済。
リクエストにお応えした作品です。
単体でも読めると思いますが、
①【私の愛しい娘が、自分は悪役令嬢だと言っております。私の呪詛を恋敵に使って断罪されるらしいのですが、同じ失敗を犯すつもりはございませんよ?】
母主人公
※ノベルアンソロジー掲載の為、アルファポリス様からは引き下げております。
②【私は、お母様の能力を使って人の恋路を邪魔する悪役令嬢のようです。けれども断罪回避を目指すので、ヒーローに近付くつもりは微塵もございませんよ?】
娘主人公
を先にお読み頂くと世界観に理解が深まるかと思います。
幼馴染みとの間に子どもをつくった夫に、離縁を言い渡されました。
ふまさ
恋愛
「シンディーのことは、恋愛対象としては見てないよ。それだけは信じてくれ」
夫のランドルは、そう言って笑った。けれどある日、ランドルの幼馴染みであるシンディーが、ランドルの子を妊娠したと知ってしまうセシリア。それを問うと、ランドルは急に激怒した。そして、離縁を言い渡されると同時に、屋敷を追い出されてしまう。
──数年後。
ランドルの一言にぷつんとキレてしまったセシリアは、殺意を宿した双眸で、ランドルにこう言いはなった。
「あなたの息の根は、わたしが止めます」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる