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アンドレイ様の言葉

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「伝言? ……マーリン殿にお会いしたのか?」
 私に尋ねてくるアンドレイ様の声は不審げだ。
「はい、廊下にある扉を開けたら長い階段があって、転がり落ちてしまいましたの。でも、地下にある部屋にいらしたマーリン様が助けて下さって」

「転がり落ちた⁉︎」
 アンドレイ様とフェリスが同時に叫ぶ。
「ええ。でも、マーリン様のおかげで、全然怪我もなく」
 突然、アンドレイ様に両腕を掴まれ、驚いた私は黙り込む。

 アンドレイ様は、忙しなくせわしなく立ったりしゃがんだりしながら、私の頭から足先まで全身を触ってきた。
「どこも何ともないか? まさか、ここでこんな危険な目に遭わされるとは思ってもみなかった。アリーヴ国王が、そんなことを企んでいたとは!」

「は? ち、違います、アンドレイ様! 誤解です、アリーヴ国の方は何も関係ないんです。義姉のエレナが」
「義姉の? エレナ殿と申されたか」
 私の体を撫で回していたアンドレイ様の手が、ぴたりと止まった。そして次の瞬間、焦った様子で、ご自分の手を背中に隠すようにした。

「エレナ様が何を?」
 フェリスの問いに、私はどう答えたものか迷った。
 エレナも関わっているとはいえ、実際のところは彼女に嫌がらせをされた、というわけではないし……。
 逡巡している私の沈黙を誤解して、フェリスが憤慨したように言った。

「もう! お嬢様、言っちゃって下さい! 侯爵様、お嬢様は、継母である現公爵夫人と、その娘であるエレナ様に散々いじめられてきたんですよ」
「フェリス」
「殴られたとか蹴られたとか、直接の暴力はありませんでしたが、お嬢様を召使い兼自分たちの小間使いとして、五年もの間いいように使ってきたんです」

「フェリス、昔のことはもういいの。アンドレイ様、正直に申し上げます。私を突き落とそうとしたのは、昨日の晩餐会で私の隣に座っていらした男性です。お名前は失念いたしましたが、近隣国の貴族の方?ですよね。どうやら、その方は義姉のことを好いていらっしゃるようで、それで私に嫌がらせをしたみたいです」

 アンドレイ様は、私の説明をじっと聞いて下さっている。
「わかりました。その男には応分の責任は取ってもらいますが、あとは何とか上手く収めましょう。エレナ殿にも、それ相応の罰は与えたいところですが」
「えっ、義姉のことなら、もういいのです。さっきだって、義姉は大事おおごとになるとは思ってもいなかったでしょうし」

「大切な侯爵夫人を傷つけるような真似をした人間には、少しお仕置きが必要でしょう。ご心配せずに、私にお任せを」
 私に向かい、そんなことを言うアンドレイ様の青い瞳に吸い込まれそうになる。
「ジョハンセン一族は、誠実さだけが取り柄なのですから」
 え? 今なんて仰ったの?
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