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エレナが?

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「気をつけて、ゆっくり」
 マーリンさんに見送られ、階段を上がる。それにしても長い階段。よく無傷で、と思ったが、おそらく何らかの怪我はしていたに違いない。それをマーリンさんが治癒魔法を使って治して下さったのだろう。

 途中で立ち止まった私は、こわごわと下を見て、
「ありがとうございます」
 と、マーリンさんにもう一度お礼を言う。
「いやいや、気をつけて帰られよ。……お幸せに! 」

 扉を開け、廊下に出た。眩しさに一瞬目を閉じ、何度か瞬きすると辺りがはっきり見えるようになった。
「お義姉さま?」
 私の目の前にエレナが立っている、真っ青な顔色をして。義姉の横には男性が立っていた。この人は……。
 ドレスにワインをかけた人だ!

「マリナ! だ、大丈夫?」
「え?」
「その、あの。えーと。扉を開けて下を覗き込んでいたから、あなた落ちたかと思ったわ」
「ええ、落ちました」
「嘘!」
「誰かに押されて。だから落ちたというより、落とされたんですけれど」
 私は、自分の身に起きたことをそのまま告げた。

「お、落ちてなんかいないわよ」
 エレナと男性の動揺ぶりに、私はピンときた。
「まさか、お義姉様たちが」
 私はそれ以上、何も言っていないのに、エレナたちは慌てふためいている。

「私は何もしてないわ! この人よ、この人が」
「私は、エレナ様のために」
「何を言ってるの! 私は頼んでなんかいないわよ」
「頼まれてはいませんが、『マリナったら、いい気になってるみたい。ちょっと痛い目に遭わせてやりたいわ』そう仰いましたね?」
「ちょっと痛い目どころじゃないでしょ! 下手したら死んでたわよ、マリナが上手くバランス取って扉を掴んでくれたから良いようなものの!」

 エレナは半泣きである。
 あっ! 『時間を戻す』と、マーリンさんが言っていたのは、このことね。
 おそらく、私が階段を落ちる前に戻してくれたのだわ。そして、私が落ちることのないよう上手く魔法を使ってくれたのだろう。

 そう気がついて、私が嬉しそうな顔をしたのかもしれない。エレナがヒステリックに叫んだ。
「もうー! なんで危険な目に合ったのに嬉しそうなの! なんか幸せそうで益々ムカつく!」

 エレナは、ドレスの裾を翻して去って行った。
 彼女の後ろを慌ててついて行く男性の姿を見て思う。
 エレナの気持ちはわからないけれど、あの男性は、どうやらエレナのことを好きなのね。だから、私に嫌がらせをして、彼女の気を引こうとしたんだわ。

「お嬢様、ここでしたか。お戻りにならないので、侯爵様と探しに来ました」
 フェリスの声がする。エレナ達が去ったのと反対側の廊下に、フェリスとアンドレイ様が並んで立っていた。

「ああ、ごめんなさい。……あのね、外に出て良かったわ。素敵な出会いがあったの」
 私はフェリスにそう答えた後、アンドレイ様に向き直って言った。
「魔術師のマーリン様という方にお会いしました。アンドレイ様にご伝言がありますの」
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