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なんて素敵なドレス

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「お嬢様!」
 私が部屋に下がった時、既に仕立て職人さんたちが、採寸をしている真っ最中であった。
 フェリスは白い木綿の下着姿で、子供のように声が弾んでいる。傍らではメアリーさんが、メジャーを手に微笑んでいた。

「お嬢様、私にまでドレスを作って頂けるそうです。嬉しいな」
 フェリスの頬は、ほんのり赤くなっている。
 ハート型の輪郭に、大きな瞳の目尻が上がり気味の彼女は、元々とても可愛い子なのだ。ドレスを着たら、どんなに美しくなるだろう。

 フェリスの様子を見て、私まで嬉しくなる。
「よかったわね、フェリス。何色のドレスがいいかしら」
「私はピンクがいいんですけど。似合わないかな?」
 フェリスはもじもじして言う。

 仕立て職人さんが笑って言った。
「ご領主様から、おふたりが欲しいだけ作るように、とのご命令です。まずは、おふたりともに7枚のドレスをお作りする所存です」
「7枚!」
 フェリスの声がうわずる。

「そんなにたくさん、大丈夫です。とりあえず1枚あれば」
「今後も公の場に出られることも多いでしょうから、早めに準備させていただきます」
 仕立て職人さんは、「ですが」と、言葉を切った。

「今回は、こちらの仮縫いのドレスをお仕立て直して、と思っています」
 そう言いながら、助手らしき人に命じて大きなトランクを開けさせる。その中には、アイボリーの上品なドレスが綺麗に畳まれて入っていた。

「きゃあ!」
 フェリスとメアリーさんが同時に叫ぶ。
「なんて素敵なドレス! 絶対に、お嬢様にお似合いになりますよ」
 私は声も出ない。だって、あまりにも綺麗なドレスだもの。布地が真珠のような光沢を放っていて、どれだけ高価なものかは一目でわかる。

 職人さんはドレスを手に取り、「失礼します」と言って、私の顔の下に当てた。
「お美しい」
 彼は満足したように言う。
『美しい』なんて。お世辞とわかっていても、嬉しくて涙が出そう。

「うん、少し詰めるだけで大丈夫そうだ」
 今度はメジャーを私のウエストに巻き付けて、目盛を確認して言った。
 今回の依頼は、私が到着した日に、アンドレイ様から直々じきじきに申し付けられたという。

「到着してすぐ、ということですか?」
「はい、奥方様の肖像画は既に拝見しておりましたから、すぐにご用意させていただいたわけで」
 アンドレイ様は、やはりお優しい方だ。
 彼の言葉に少し傷ついた私だけれど、そんなことは忘れよう。そう、あれは言葉の綾ともいうべきもの。

 仕立て職人さんたちが帰った後、私たちは夢心地だった。
「お嬢様、私もパーティに列席してもいいのでしょうか」
 フェリスの目はうるうるしている。
「もちろんよ、領主夫人の『妹』ですもの。大手を振って、パーティでもなんでも参列していいはずよ、きっと」

 アンドレイ様の気遣いに、私は自信のようなものが、むくむくと湧いてくるのを感じていた。
 あ、でも隣国のパーティって、どんなパーティなのかしら。招待されるくらいだから、友好国のパーティのはずだが。
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