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その十
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千津子との電話を切った裕子は、朧げに浮かんできた自分の考えを、頭の中で整理してみる。
最初の持ち主、米さんは箱の不思議を知らなかった。そして不幸な事件に巻き込まれて亡くなった。
次の持ち主、梅さんは不思議を知ったが、大震災で亡くなった。
その次は持ち主ではないが、不思議を知った千津子さんはお元気だ。癲狂院に半世紀も入れられていたとはいえ、『一族で一番長生き出来た』と満足そうに言っている。
箱に『選ばれし者』が現れた時、その前の『持ち主』或いは『選ばれし者』は、理不尽な亡くなり方をしているように思える。
いやな予感がして、裕子は慌てて千津子に電話する。
さっきはすぐに電話が繋がったのに、今は呼出音をかなり長く鳴らしたが、誰も出ない。そして突然、呼出音がプツッと途切れた。
裕子は焦りながら再び電話をかける。
今度はプーッという音が鳴るだけで、電話自体が繋がらない。
電話が繋がらず、いらいらするのと同時に、不安な気持ちでいる裕子の耳に、ヘリコプターの爆音が響いてきた。
裕子は、しばらくの間、上空を飛ぶ大型ヘリを真下からながめていた。
随分大きなヘリだが、あれはマスコミ関係や遊覧飛行ではなく、警察や自衛隊の救援ヘリであろうか。
裕子はもう一度、千津子に電話をかけてみたが繋がらず、仕方なく一旦家に帰った。
落ち着きなく、上着を脱いだり着てみたり、そわそわと部屋の中を歩き回る。
『箱は不幸を知らせる』と千津子は言ったが、違う見方もできるのだ。
『箱は不幸をもたらす』と考えてみたら?
箱の不思議に気づいた私を、千津子の次に箱に選ばれてしまった者と考えると、後任者が現れてしまった以上、箱からしたら、前任者は用済みなのだ。嫌な言い方ではあるが。
所在なく、テレビをつけてみた彼女の目に飛び込んできたのは、火事の映像であった。アナウンサーの緊迫した音声が彼女の耳を打つ。
『臨時ニュースです。臨時ニュースを申し上げます。ただ今入ってきた情報によりますと、今日午後二時三十一分、米軍機が住宅地に墜落し、大規模な火災が起きております。場所は東京都日野市……』
結局、千津子は米軍機の事故による火災で亡くなった。
翌日、連絡のついた稔から、そのことを聞かされた裕子は激しい衝撃を受けた。
やはり自分の存在が、彼女の事故死を招いてしまったのだろうか。
幸せだったとは言えない彼女が、ようやく穏やかな日々を手に入れたのに、私がぶち壊してしまった。
居たたまれない思いで、自室のベッドの中で泣き続けることしかできなかった。
その日から三日ほど布団にくるまり、裕子は病人のように過ごした。
千津子に対する申し訳なさもあるが、彼女の死によって、自分の行く末がなんとなくわかってしまった以上、このまま眠っている間に死ねたら。そんなふうに考えてしまう。
箱の持ち主ではない千津子は、箱に『選ばれし者』となって死んだ。ならば、彼女と同じ立場の自分も、次の『選ばれし者』が現れたら、悲惨な目に遭い死ぬのであろう。
ほんの何日か前の裕子は、雅也と結婚したら、自分の人生はパーフェクトだなどと考えていた。
なんておめでたい人間なんだろう。
……そういえば、雅也に連絡するのをすっかり忘れていた。
自分にとって、もはや彼はどうでもいい存在になっていたのか。
しかし、伝えなくてはならないし、一緒に助かる道を考えないといけない。信じてもらえるかどうかはわからないが。
最初の持ち主、米さんは箱の不思議を知らなかった。そして不幸な事件に巻き込まれて亡くなった。
次の持ち主、梅さんは不思議を知ったが、大震災で亡くなった。
その次は持ち主ではないが、不思議を知った千津子さんはお元気だ。癲狂院に半世紀も入れられていたとはいえ、『一族で一番長生き出来た』と満足そうに言っている。
箱に『選ばれし者』が現れた時、その前の『持ち主』或いは『選ばれし者』は、理不尽な亡くなり方をしているように思える。
いやな予感がして、裕子は慌てて千津子に電話する。
さっきはすぐに電話が繋がったのに、今は呼出音をかなり長く鳴らしたが、誰も出ない。そして突然、呼出音がプツッと途切れた。
裕子は焦りながら再び電話をかける。
今度はプーッという音が鳴るだけで、電話自体が繋がらない。
電話が繋がらず、いらいらするのと同時に、不安な気持ちでいる裕子の耳に、ヘリコプターの爆音が響いてきた。
裕子は、しばらくの間、上空を飛ぶ大型ヘリを真下からながめていた。
随分大きなヘリだが、あれはマスコミ関係や遊覧飛行ではなく、警察や自衛隊の救援ヘリであろうか。
裕子はもう一度、千津子に電話をかけてみたが繋がらず、仕方なく一旦家に帰った。
落ち着きなく、上着を脱いだり着てみたり、そわそわと部屋の中を歩き回る。
『箱は不幸を知らせる』と千津子は言ったが、違う見方もできるのだ。
『箱は不幸をもたらす』と考えてみたら?
箱の不思議に気づいた私を、千津子の次に箱に選ばれてしまった者と考えると、後任者が現れてしまった以上、箱からしたら、前任者は用済みなのだ。嫌な言い方ではあるが。
所在なく、テレビをつけてみた彼女の目に飛び込んできたのは、火事の映像であった。アナウンサーの緊迫した音声が彼女の耳を打つ。
『臨時ニュースです。臨時ニュースを申し上げます。ただ今入ってきた情報によりますと、今日午後二時三十一分、米軍機が住宅地に墜落し、大規模な火災が起きております。場所は東京都日野市……』
結局、千津子は米軍機の事故による火災で亡くなった。
翌日、連絡のついた稔から、そのことを聞かされた裕子は激しい衝撃を受けた。
やはり自分の存在が、彼女の事故死を招いてしまったのだろうか。
幸せだったとは言えない彼女が、ようやく穏やかな日々を手に入れたのに、私がぶち壊してしまった。
居たたまれない思いで、自室のベッドの中で泣き続けることしかできなかった。
その日から三日ほど布団にくるまり、裕子は病人のように過ごした。
千津子に対する申し訳なさもあるが、彼女の死によって、自分の行く末がなんとなくわかってしまった以上、このまま眠っている間に死ねたら。そんなふうに考えてしまう。
箱の持ち主ではない千津子は、箱に『選ばれし者』となって死んだ。ならば、彼女と同じ立場の自分も、次の『選ばれし者』が現れたら、悲惨な目に遭い死ぬのであろう。
ほんの何日か前の裕子は、雅也と結婚したら、自分の人生はパーフェクトだなどと考えていた。
なんておめでたい人間なんだろう。
……そういえば、雅也に連絡するのをすっかり忘れていた。
自分にとって、もはや彼はどうでもいい存在になっていたのか。
しかし、伝えなくてはならないし、一緒に助かる道を考えないといけない。信じてもらえるかどうかはわからないが。
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