パンドラの予知

花野未季

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その十二

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 千津子はその日も見せ物小屋で、永井が見せ物の口上を述べる際の、おまけの演し物として千里眼を披露した。
 当然のように、何度か成功させたあとのこと。

 見物客の拍手喝采を聞いて、千津子はふと思った。自分のやっていることは、実際には千里眼ではないのだが、こんな人を騙すようなことをやっていていいのだろうか? と。

 もじもじして、急に正解を出せなくなった千津子の様子を見て、永井が「千里眼少女はお疲れのようですんで、今日はこれにて。では皆様、見せ物をお楽しみください」と、切り上げてくれた。

「もっと見たいなあ、今日は調子が悪いんかね?」
「間違えるってことは、こりぁ本物だね。インチキなら全部すらすら当てるだろ」
 見物客が口々に永井に言う。

 永井は鷹揚な態度で、「申し訳ございません。明日また」と笑った。
 そのあと小屋の外で、永井が千津子に突然調子が狂ってしまった理由を尋ねてきた。

 千津子が正直に答えると、
「千里眼なんてもんは、この世にはねえんだよ。でもそういう芸を見せればお客は喜ぶ。芸人はお客様を楽しませるもんだ。割り切ってやってくれ」
 永井はそう言って、千津子の頭をあやすように撫でた。

 納得のいかない千津子だが、
「それによ、お前が不思議な力を持っているのは間違いないんだよ。もっと堂々としていいくらいだよ」
 永井に励まされるように言われ、考え込んでしまうのだった。

 その夜も梅と松子、捨吉の四人で夕餉ゆうげの膳を囲んでいる時に、千津子は今日の出来事を話してみた。

「旦那さんの言う通りだよ。芸人はいっときのお慰み、浮き草稼業だ。真面目に考えるだけ無駄な話だよ」
 松子の返答に、千津子が少し傷ついたような顔をしたのに気づいた捨吉が、取りなすように言う。

「そんな身も蓋もない言い方はなかろう。千津子ちゃんはまだ子供なんだし、堅気のお嬢ちゃんなんだよ。真っ当な考え方じゃあねえか、なあ? 梅さん」

 捨吉は、ふきのとうのお浸しやこんにゃく、厚揚げの味噌田楽を肴に、ちびりちびりと熱燗を飲んでいる。
 子供のような姿形と声で、時には説教じみたことも言う捨吉だが、彼の語る言葉は温かく、どれも身に沁みるようである。

 しかし、捨吉とは長い付き合いである松子は、遠慮なく言い返す。
「おいちゃんはそんなふうに言うけどさ。あたしたちと千津ちゃんの違いって、なんだよ。同じ商売してんじゃねえか」

 松子はすっかり酔っているようで、
「見た目や育ちで差別されてたまるもんか」
 吐き捨てるように言うと、彼女は畳に倒れ込んで寝てしまった。

「おいおい、どうしたんだ? 松子、起きろ」
 捨吉が松子を揺さぶるが、既に彼女は軽いいびきまでたて始めている。

 梅が、自分が羽織っているを松子にかけてやり、
「今日はこのままここで寝かせてやろう」と、捨吉に言った。

「すみませんね、梅さん。こいつ最近、街頭演説聞いて、かぶれちまったみたいなんだ。難しいね、こいつもそろそろ年頃なんでね」

 捨吉はため息をついて、悲しそうに首を振る。
「困ったね。興行も前ほど受けねえし、こいつは嫁になんぞ行けねえ身体だし」
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