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第九章 夏季休業

お城到着

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 30分ほどで馬車は城の門をくぐった。

「「「「「「おかえりなさいませ、エーアリアス姫様!」」」」」」

 馬車を降りると、ずらりと並んだ城の侍女が一斉に頭を下げた。

「……大袈裟なの」

 エーアリアスは顔をしかめると、皆を着替えさせるように言った。

「それから、お父様に急ぎでお話ししたいことがあると伝えて欲しいの」
「かしこまりました」

 エーアリアスは指示をし終えるとマリアの腕を掴んで足早に歩きだした。

「えっ?」
「時間がないの」

 エーアリアスの足取りは軽く、その後ろ姿をある者は微笑ましく、またある者は妬ましそうに見ていた。

「ん~、暖色系よりも寒色系の方が似合いそうなの」

 エーアリアスは広々とした自室のクローゼットを見て溜息を吐いた。

「青系統の色がいいとは思うけど、私は持ってないの。緑で大丈夫なの?」
「うん」

 エーアリアスは少し悩んだあと、1着のドレスを手に取った。

「じゃあこれなの。1人で着替えられる?」
「う、うん」

 マリアは袖口やら裾やらにふんだんに使われた白いレース飾りに頬を引きつらせた。

「靴はこれで……髪飾りはこれなの」

 エーアリアスは一式選び終わると、満足気に頷いた。そして手早く自分のものも選ぶと着替え始めた。

「リア……落ち着かないんだけど……」

 普段シンプルな服を好むマリアの趣味とは反対に、布をたっぷりと使われた淡い緑の膝丈のスカートはパニエで大きく広がり、深い緑の糸で裾にだけバラの刺繍がされていた。上半身はオフショルダーで胸元は深緑の大きなリボンが付いている。手首まである袖口は大きく広がり、スカートの裾と同じく刺繍が施されている。極めつけは後ろで結ばれたシフォン生地の水色の大きなリボン。ここにも大小様々なバラの刺繍がされている。

「似合ってるの。可愛いの!」

 いつもよりいくぶん高い声を出すエーアリアスは飾り気がほとんどない薄紫のドレスで、胸元にはシフォン素材の青いバラのコサージュが付いている。その姿をうらやましそうにマリアは見た。
 だが借りる立場で文句を言えるはずもなく、諦めの表情で白いニーハイソックスと翡翠色のベルトシューズを受け取った。

「メアリー、髪型をお願いなの」

 マリアはもはやどうにでもなれと遠い目をした。

「……ヒマ」

 ベルは誰の耳にも届かぬほど小さい声で呟くと、手持ちの服の中から黒いワンピースドレスを出して勝手に着替え始めた。
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