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第九章 夏季休業
あの人
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「……まったく、こっちも暇じゃないんだからな」
「すいません」
「すまねぇ」
「申し訳ない」
最終的にギルガルドとマリア、ついでに他の5人は警備兵に説教されることとなった。当事者以外の5人は完全にとばっちりと言っても良い。
すでに野次馬も粗方いなくなっており、時折通りがかった者が説教されている者たちの組み合わせにギョッとしたような顔をする。
「次からは紛らわしい行動はしないように」
最後にそう締めくくると警備兵は帰っていった。
「……遅くなっちゃいますし、そろそろ出発しましょう」
そうだな」
お互い若干気まずいながらも、なんとか目を合わせることはできていた。
すでに日はだいぶ高くなっており、徒歩移動では途中で野宿になる可能性もあった。
「そうだな。ここから先は盗賊がよく出るらしいし、いつも以上に気を引き締めるようにな」
街の門までの道を歩きながらギルガルドがそんなことを皆に注意する。
「えっ?盗賊が出るの?」
「らしいな。ギルドのお知らせボードに書かれていたんだが、見なかったのか?」
「うっ、見てないです。依頼の方に気を取られていました。というか、その存在自体初耳です」
その言葉にギルガルドは溜息を吐く。
「あのなぁ、情報収集は冒険者の必須技能だ。特にお知らせボードに書かれていることは自分たちの生死を分けることもあるんだ。次からはちゃんと確認するように」
「……はい」
怒られて肩を落とす。
「でもおかしいな。お知らせボード自体は登録時に説明されるはずだ」
「……えっ?そんなこと言われた記憶ありませんよ。……アルは?」
「……僕もないな」
それを聞いた瞬間、ギルガルドの顔つきが厳しいものに変わる。
「……登録の時に説明したのは誰だ?」
その声は普段よりも低い。
「お、おじさん、怒ってる?」
頬を引きつらせながら恐る恐る尋ねる。
「当たり前だろ?最悪マリアちゃんたちは魔物の胃の中だったかもしれないんだ。それに他にもお知らせボードの存在を知らないやつがいるかもしれねぇ。俺はそんなことは看過できねぇ。それがあの人との、俺が新人時代に世話になった人との約束だからな」
フェルトとダスケルはまた始まったというように苦笑いした。
「その人って誰ですか?」
その質問にギルガルドは困ったように笑う。
「教えてやりたいことは山々なんだが、それはできねぇんだ。あの人に絶対に名前を出すなと言われていてな」
「……え~」
「あの人が亡くなった今となっては本人の許可を取ることもできねぇしな」
「えっ?」
思いがけない言葉に目を瞬く。
「死んじゃってるんですか?」
「ああ、6年前にな」
「……6年前っていうと戦争ですか?」
「……ああ。あの人が亡くなったと聞いた時は信じられなかった。自分の耳を疑った。今になってもまだ実感が湧かねぇ。いつかその辺からひょっこり顔を出すんじゃねぇかって考えてしまう」
それからしばし沈黙が流れ、再びギルガルドは言い辛そうに口を開く。
「……この前処刑されたベルジュラック公爵っているだろ?」
「はい」
思い出したくない名にマリアは顔を顰める。
「……あの人はあいつの指揮下の隊に入れられたんだ」
その言葉にマリアはハッとした。
「……全滅」
「ああ。この間あの時にあった真実を聞いて初めて腑に落ちたよ。あの人は……とても戦争ぐらいで亡くなる人じゃねぇからな。それにあの人に世話になったのは俺だけじゃねぇ。フェルトとダスケルもだ。2人とも大なり小なり俺と似たようなことを考えているんじゃないのか?」
「……ああ」
「俺もだ。あの人は……言っちゃ悪いが地獄の底からでも這い戻ってきそうだからな」
「だなぁ」
昔懐かしがる3人にどんな人だったんだろうとマリアは思いをはせる。
(きっと思いやり深い優しい人だったんだろうな)
地獄の云々は聞かなかったことに決め込むマリアだった。
「すいません」
「すまねぇ」
「申し訳ない」
最終的にギルガルドとマリア、ついでに他の5人は警備兵に説教されることとなった。当事者以外の5人は完全にとばっちりと言っても良い。
すでに野次馬も粗方いなくなっており、時折通りがかった者が説教されている者たちの組み合わせにギョッとしたような顔をする。
「次からは紛らわしい行動はしないように」
最後にそう締めくくると警備兵は帰っていった。
「……遅くなっちゃいますし、そろそろ出発しましょう」
そうだな」
お互い若干気まずいながらも、なんとか目を合わせることはできていた。
すでに日はだいぶ高くなっており、徒歩移動では途中で野宿になる可能性もあった。
「そうだな。ここから先は盗賊がよく出るらしいし、いつも以上に気を引き締めるようにな」
街の門までの道を歩きながらギルガルドがそんなことを皆に注意する。
「えっ?盗賊が出るの?」
「らしいな。ギルドのお知らせボードに書かれていたんだが、見なかったのか?」
「うっ、見てないです。依頼の方に気を取られていました。というか、その存在自体初耳です」
その言葉にギルガルドは溜息を吐く。
「あのなぁ、情報収集は冒険者の必須技能だ。特にお知らせボードに書かれていることは自分たちの生死を分けることもあるんだ。次からはちゃんと確認するように」
「……はい」
怒られて肩を落とす。
「でもおかしいな。お知らせボード自体は登録時に説明されるはずだ」
「……えっ?そんなこと言われた記憶ありませんよ。……アルは?」
「……僕もないな」
それを聞いた瞬間、ギルガルドの顔つきが厳しいものに変わる。
「……登録の時に説明したのは誰だ?」
その声は普段よりも低い。
「お、おじさん、怒ってる?」
頬を引きつらせながら恐る恐る尋ねる。
「当たり前だろ?最悪マリアちゃんたちは魔物の胃の中だったかもしれないんだ。それに他にもお知らせボードの存在を知らないやつがいるかもしれねぇ。俺はそんなことは看過できねぇ。それがあの人との、俺が新人時代に世話になった人との約束だからな」
フェルトとダスケルはまた始まったというように苦笑いした。
「その人って誰ですか?」
その質問にギルガルドは困ったように笑う。
「教えてやりたいことは山々なんだが、それはできねぇんだ。あの人に絶対に名前を出すなと言われていてな」
「……え~」
「あの人が亡くなった今となっては本人の許可を取ることもできねぇしな」
「えっ?」
思いがけない言葉に目を瞬く。
「死んじゃってるんですか?」
「ああ、6年前にな」
「……6年前っていうと戦争ですか?」
「……ああ。あの人が亡くなったと聞いた時は信じられなかった。自分の耳を疑った。今になってもまだ実感が湧かねぇ。いつかその辺からひょっこり顔を出すんじゃねぇかって考えてしまう」
それからしばし沈黙が流れ、再びギルガルドは言い辛そうに口を開く。
「……この前処刑されたベルジュラック公爵っているだろ?」
「はい」
思い出したくない名にマリアは顔を顰める。
「……あの人はあいつの指揮下の隊に入れられたんだ」
その言葉にマリアはハッとした。
「……全滅」
「ああ。この間あの時にあった真実を聞いて初めて腑に落ちたよ。あの人は……とても戦争ぐらいで亡くなる人じゃねぇからな。それにあの人に世話になったのは俺だけじゃねぇ。フェルトとダスケルもだ。2人とも大なり小なり俺と似たようなことを考えているんじゃないのか?」
「……ああ」
「俺もだ。あの人は……言っちゃ悪いが地獄の底からでも這い戻ってきそうだからな」
「だなぁ」
昔懐かしがる3人にどんな人だったんだろうとマリアは思いをはせる。
(きっと思いやり深い優しい人だったんだろうな)
地獄の云々は聞かなかったことに決め込むマリアだった。
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