346 / 464
第九章 夏季休業
混沌
しおりを挟む
「おじいちゃん!早く早く!」
澄み渡るような夏の青空の下、弾んだ声が響いた。驚いたように周囲の森から鳥が羽音を立てて飛びたった。
「そんなにはしゃぐとすぐにばててしまうぞ」
「……そんなことないもん」
傍から見れば奇妙な一行だった。どこか気品が溢れる老人とつばの広い帽子を被った袖なしの水色のワンピース姿の少女。護衛らしき剣を携えた青年。そこまでは珍しくはあれど組み合わせに違和感はない。
「爺さんの言う通りだ。大人しくしていろ」
「……は~い」
少女の頭を乱暴に撫でるのは強面の冒険者の男。本当にただ撫でているだけなのだが、その顔だけで時と場所によっては牢に放り込まれるかもしれない。いや、実際に街で同じ行動をして警備兵を呼ばれた実績を考えると笑えない。もっともすぐに誤解は解け、解放されたのだが……。
「返事は短くだ」
「はいはい」
「はいは1回だ」
「……はい」
周りはそんなやり取りを微笑まし気に、あるいは羨ましそうに見ていた。
「……マリアちゃん本人が楽しそうだから良いけど、絵面がヤバいな」
「ああ。というか羨ましい。俺にもその笑顔を向けて欲しい」
厳つい顔で目を潤ませている成人男性が並んで少女──マリアを見つめているさまは不気味でしかない。心なしか目があってしまった青年──アルフォードの顔がひきつっている。
「何というかカオスだな」
1人離れてその様子を見ていた男はそう呟いた。
◇◆◇
なぜこのような混沌とした状況になっているのか。それを説明するためには1週間近く前、丁度学園の夏季休業が始まる前々日に遡る必要がある。
その日国王に呼び出されたアルフォードは告げられた言葉に困惑していた。
「えっ?今何て……」
「だから夏季休業期間中、ちょっとマリアと旅行に行って来い」
「いや、だからなんで……」
呼び出されてからの第一声がそれでは理由などまったくわからない。
「んっ?ああ、言ってなかったが1週間後から1月半ほどエーデル王国のリーゼロッタ・フォン・エーデル第一王女が滞在することになっているのだが、そっちのお相手の方が「旅行の方でお願いします」……せめて最後まで言わせてくれ」
話を途中で遮られ、国王は苦笑いした。
「マリアにはもう話は通してある。どこに行くかは彼女に任せると言っておいたから、行き先がどこになろうと文句は言わないように」
「……わかりました」
「……それと侍医を、レリオン・シュタットを連れていくように。これは決定事項だ」
思わぬ名が出てきたことにアルフォードは目を瞬く。
「……彼を連れていってもよろしいので?」
「……2月ぐらい代わりが勤まらぬようでは到底役になど立たない。ふるいにかける良い機会だ。偶にはあいつも仕事を忘れてゆっくり骨休めさせてやりたいしな。他に共に行く者は好きに選んで構わない。」
「……わかりました」
アルフォードは一礼するとその場から退室した。
(……気が重い。どうせ帰ったら仕事が溜まってそうだし……)
アルフォードにとって国王とは仕事を押し付けられるだけの人間でしかなかった。
別に国王が仕事をしないわけではない。悪気や何か恨みがあるわけでもない。ただ単純に仕事を任せられる人間がいなかっただけの話なのだが……。
澄み渡るような夏の青空の下、弾んだ声が響いた。驚いたように周囲の森から鳥が羽音を立てて飛びたった。
「そんなにはしゃぐとすぐにばててしまうぞ」
「……そんなことないもん」
傍から見れば奇妙な一行だった。どこか気品が溢れる老人とつばの広い帽子を被った袖なしの水色のワンピース姿の少女。護衛らしき剣を携えた青年。そこまでは珍しくはあれど組み合わせに違和感はない。
「爺さんの言う通りだ。大人しくしていろ」
「……は~い」
少女の頭を乱暴に撫でるのは強面の冒険者の男。本当にただ撫でているだけなのだが、その顔だけで時と場所によっては牢に放り込まれるかもしれない。いや、実際に街で同じ行動をして警備兵を呼ばれた実績を考えると笑えない。もっともすぐに誤解は解け、解放されたのだが……。
「返事は短くだ」
「はいはい」
「はいは1回だ」
「……はい」
周りはそんなやり取りを微笑まし気に、あるいは羨ましそうに見ていた。
「……マリアちゃん本人が楽しそうだから良いけど、絵面がヤバいな」
「ああ。というか羨ましい。俺にもその笑顔を向けて欲しい」
厳つい顔で目を潤ませている成人男性が並んで少女──マリアを見つめているさまは不気味でしかない。心なしか目があってしまった青年──アルフォードの顔がひきつっている。
「何というかカオスだな」
1人離れてその様子を見ていた男はそう呟いた。
◇◆◇
なぜこのような混沌とした状況になっているのか。それを説明するためには1週間近く前、丁度学園の夏季休業が始まる前々日に遡る必要がある。
その日国王に呼び出されたアルフォードは告げられた言葉に困惑していた。
「えっ?今何て……」
「だから夏季休業期間中、ちょっとマリアと旅行に行って来い」
「いや、だからなんで……」
呼び出されてからの第一声がそれでは理由などまったくわからない。
「んっ?ああ、言ってなかったが1週間後から1月半ほどエーデル王国のリーゼロッタ・フォン・エーデル第一王女が滞在することになっているのだが、そっちのお相手の方が「旅行の方でお願いします」……せめて最後まで言わせてくれ」
話を途中で遮られ、国王は苦笑いした。
「マリアにはもう話は通してある。どこに行くかは彼女に任せると言っておいたから、行き先がどこになろうと文句は言わないように」
「……わかりました」
「……それと侍医を、レリオン・シュタットを連れていくように。これは決定事項だ」
思わぬ名が出てきたことにアルフォードは目を瞬く。
「……彼を連れていってもよろしいので?」
「……2月ぐらい代わりが勤まらぬようでは到底役になど立たない。ふるいにかける良い機会だ。偶にはあいつも仕事を忘れてゆっくり骨休めさせてやりたいしな。他に共に行く者は好きに選んで構わない。」
「……わかりました」
アルフォードは一礼するとその場から退室した。
(……気が重い。どうせ帰ったら仕事が溜まってそうだし……)
アルフォードにとって国王とは仕事を押し付けられるだけの人間でしかなかった。
別に国王が仕事をしないわけではない。悪気や何か恨みがあるわけでもない。ただ単純に仕事を任せられる人間がいなかっただけの話なのだが……。
0
お気に入りに追加
856
あなたにおすすめの小説
側妃に追放された王太子
基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」
正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。
そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。
王の代理が側妃など異例の出来事だ。
「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」
王太子は息を吐いた。
「それが国のためなら」
貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。
無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。
称号は神を土下座させた男。
春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」
「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」
「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」
これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。
主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。
※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。
※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。
※無断転載は厳に禁じます
公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)
音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。
魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。
だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。
見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。
「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。
王女の夢見た世界への旅路
ライ
ファンタジー
侍女を助けるために幼い王女は、己が全てをかけて回復魔術を使用した。
無茶な魔術の使用による代償で魔力の成長が阻害されるが、代わりに前世の記憶を思い出す。
王族でありながら貴族の中でも少ない魔力しか持てず、王族の中で孤立した王女は、理想と夢をかなえるために行動を起こしていく。
これは、彼女が夢と理想を求めて自由に生きる旅路の物語。
※小説家になろう様にも投稿しています。
異世界 de ソウルコレクター
白水 翔太
ファンタジー
獅童海人《しどうかいと》は、ふとしたきっかけで命を落とす。死後の世界で神と出会い、あることを依頼された。というか懇願された。それは運命《さだめ》と呼ぶべきかもしれない。異世界に飛び散った自身の魂の欠片。それを回収しなければならなかった。異世界は魂でなければ渡れない。異世界を渡る度に年齢もレベルもリセットされる。スキルやアイテムの一部、そして記憶は持ち越すことができるようだ。俺の繰り返される異世界人生の始まりだった。
第一世界は魔王討伐。第二世界は学園ものとコンテンツが大きく変わっていきます。
世界を幾つ渡れば旅は終わるのか。それは誰にもわからない……。
(旧タイトル:異世界をチートで渡り歩いて魂の欠片を集めよう!)
嵌められ勇者のRedo LifeⅡ
綾部 響
ファンタジー
守銭奴な仲間の思惑によって、「上級冒険者」であり「元勇者」であったアレックスは本人さえ忘れていた「記録」の奇跡により15年前まで飛ばされてしまう。
その不遇とそれまでの功績を加味して、女神フェスティーナはそんな彼にそれまで使用していた「魔法袋」と「スキル ファクルタース」を与えた。
若干15歳の駆け出し冒険者まで戻ってしまったアレックスは、与えられた「スキル ファクルタース」を使って仲間を探そうと考えるも、彼に付与されたのは実は「スキル ファタリテート」であった。
他人の「宿命」や「運命」を覗き見れてしまうこのスキルのために、アレックスは図らずも出会った少女たちの「運命」を見てしまい、結果として助ける事となる。
更には以前の仲間たちと戦う事となったり、前世でも知り得なかった「魔神族」との戦いに巻き込まれたりと、アレックスは以前とと全く違う人生を歩む羽目になった。
自分の「運命」すらままならず、他人の「宿命」に振り回される「元勇者」アレックスのやり直し人生を、是非ご覧ください!
※この物語には、キャッキャウフフにイヤーンな展開はありません。……多分。
※この作品はカクヨム、エブリスタ、ノベルアッププラス、小説家になろうにも掲載しております。
※コンテストの応募等で、作品の公開を取り下げる可能性があります。ご了承ください。
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
婚約破棄されたので、論破して旅に出させて頂きます!
桜アリス
ファンタジー
婚約破棄された公爵令嬢。
令嬢の名はローザリン・ダリア・フォールトア。
婚約破棄をした男は、この国の第一王子である、アレクサンドル・ピアニー・サラティア。
なんでも好きな人ができ、その人を私がいじめたのだという。
はぁ?何をふざけたことをおっしゃられますの?
たたき潰してさしあげますわ!
そして、その後は冒険者になっていろんな国へ旅に出させて頂きます!
※恋愛要素、ざまぁ?、冒険要素あります。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
文章力が、無いのでくどくて、おかしいところが多いかもしれません( ̄▽ ̄;)
ご注意ください。m(_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる