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第八章 ベルジュラック公爵家

ベルジュラック公爵(2)

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 マリアが無言で罵詈雑言を聞き流していると、次第に公爵はドアの方を気にしだした。

「……ああ、そうだ。時間を稼ぎたいみたいだから教えてあげる。……どれだけ待っても誰も来ないよ」

 後ろの2人が腹いせにこの屋敷にいる人は全員気絶させて縛っちゃったからと、マリアは笑顔で追い討ちをかける。

「ふん、嘘だな。貴様のような小娘が雇えるような者にこの屋敷の使用人は倒せん」
「……どうだろうね」

 公爵のこの余裕は貴族ではない、つまりは魔術師ではないであろう者に魔術師は倒せないと信じて疑っていないところに起因する。

「……アル、もう面倒だからさっさとお願い。その後に証拠類は探せば良いから」

 何を言っても微妙にずれた返答が返ってくる。もうマリアは公爵と話すことに疲れていた。

「……わかった」

 アルフォードも大きなため息とともに普段使っている剣を取り出した。

「なっ!?」

 公爵は突然の事態に口をパクパクさせた。

「……話し合いで終わりそうだったらそれで終わらせようと思ったのに」

 マリアの言葉とともにアルフォードは一気に公爵との距離を詰め、その首筋に剣の柄を思いっきり当てて気絶させた。

 マリアが後ろを振り向くとサンドライトが肩を震わせて笑っていた。

「……なんで笑っているんですか?」

 流石に相手が国王だとは言え、笑われるのは納得がいかなかった。

「すまんすまん。つい、な」
「……ついってなんですか?ついって……」

 力が抜けるような気がした。

「……そんな話は後にしてサッサと証拠を探しますよ。先ほどはあのように言いましたが、見落としがないとは言えないんですから」

 エルマンの言葉にマリアは渋々引き下がるととりあえずこの部屋の中を探し始めた。

「……あれ?そういえばこの人ってどうなるんですか?」

 手は動かしながらもふと気になったことを尋ねた。

「極刑だな」
「極刑ですね」
「そんなこと極刑に決まっておるだろう」

 何を言っているんだという視線がマリアに突き刺さった。

「あっ、はい。そうなんですね。……すでに証拠を抑えてるものもあるんですよね?」

 マリアは居心地が悪くなり、慌てて話題を変えた。

「……色々とあるが、一番大それたのはエーデル王国の王弟の誘拐の疑いだな」
「……疑いって、それだけでそんなに問題になるんですか?」
「……状況証拠から言って王弟が自ら城を出たのではない限り、ベルジュラック公爵が王弟誘拐の最重要容疑者だ。あやつ観光であの国を訪れた時期と王弟が消えた時期が一致する上に、その頃色々とあの国でこそこそと動いていたらしいからな」

 サンドライトのため息には隠しきれない疲れが滲み出ていた。
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