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第七章 それぞれの過ごす日々

アーティスの受難(6)

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「今回の依頼の最低討伐数っていくつです?」
「……」

 アーティスが話しかけてもデリーは反応がないままだった。

「デリーさん?」

 アーティスはどうしようかと嘆息してロンとリンを見たが、こちらも固まったままだった。
 仕方なくそのまま放置することに決め、これ幸いと今のうちにグレンと内緒話を済ませることにした。
 一応念のためデリーたちからはある程度離れた場所までグレンを引っ張って移動すると、念には念を入れて《防音障壁》を使った。

「……グレン。デリーさんたちの前で使った魔術は《身体強化》だけだよね?」
「……いや」

 グレンは不思議そうに首を傾げた。

「……いったい何を使ったんだ!?」

 アーティスはグレンの両肩を掴んで揺さぶった。

「ちょっ!?苦しいから離せ!」
「あっ、ごめん」

 アーティスは慌ててグレンを解放した。グレンは小さく咳払いすると話し出した。

「……そもそも僕は魔術なんて使っていない」
「えっ?」

 アーティスは理解が追いつかなかった。いや、脳が理解することを拒否したというべきか。

「槍を投げた時のあれも素の身体能力だ」
「えっ?ちょっと待って。あれで素?」
「ああ」
「……あれ、僕の《身体強化》使ってる時とほとんど変わらなかったよね?」
「ああ」

 グレンは短く肯定した。

「あれで?」
「ああ」

 アーティスの思考はループしていた。

「……お前忘れていないか?僕はこれでも紅龍だぞ?たとえ身内に落ちこぼれだなんだと言われてもな」

 グレンはニヤリと笑った。

「たとえ人の姿をしていようが、身体能力が人間よりも上なのは当然だろ?」
「……それもそうだね」

 アーティスはすでに思考放棄していた。もうグレンなんだから何が起きても不思議ではないと割り切っていたともいう。

「……グレンは……しばらくは人前では緊急事態を除いて魔術は使用禁止ね。僕たちは基本《身体強化》は解禁しているけど、グレンは人間から隔絶した動きをしそうだしね」

 アーティスは力のない笑みを浮かべた。

「?マリアはどうなんだ?あいつは普段から魔術を乱発しているだろ?」
「マリアは例外だね。僕たちは人気がないところでは魔術を使ったりするから。誰も魔術が使えないはずなのに焼け焦げた毛皮とかを持っていったらおかしいだろ?半分は隠れ蓑だね」

 まあ最近は魔術なんて使う機会がないと、アーティスは笑った。

「……そろそろデリーさんたちも我に返るだろうし、戻ろうか?」

 アーティスは《防音障壁》を解除すると、グレンを促してゆっくりと歩き出した。
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