256 / 464
第七章 それぞれの過ごす日々
マリアの1日(21)
しおりを挟む
「ん~、時間も微妙だし、偶には買い物でもしようかな。ベルもそれで良い?」
時刻はまだ昼過ぎ。依頼によっては1つぐらい余裕でこなせる時間だが、今さらギルドに戻る選択肢はマリアにはなかった。
「ウン!」
ベルはマリアのローブのフードから顔を覗かせると、いそいそと小さな手と、どこからか出てきた蔓を器用に使ってマリアの頭をよじ登った。
「……そこが気に入ったの?」
「ウン!トオク、ミル、デキル」
「……まぁ気に入ったのなら良いけど、髪の毛は引っ張らないでよ。さっき強く引っ張ったでしょ。痛かったんだからね」
「ゴメンナサイ」
マリアはもうベルが目立つことは気にしなかった。王族が陰で動いてくれるんだから、今さら目立ったところで関係がないと思っていた。むしろあの面倒くさいベルジュラック公爵家の人間を早く釣れて好都合だとも。裏でラーナの目から涙が零れ落ちそうになっていることなど、露ほどにも思っていなかった。
「……なんで自分から目立つことを」
いつの世も一番苦労しているのは影の功労者たちなのかもしれない。
◇◆◇
「あれ?そう言えばベルの服ってどうなってるの?体の一部?」
今になってマリアはベルの服に興味を示した。
「……ジブン、イト、ツクル。コレ、ワタシ、ジブン、ツクル、シタ」
「?自分で糸から作ってるの?」
ベルのたどたどしい説明をなんとか理解しようとしたが、首を傾げることになった。
「ソウ。イト、ワタシ、ツル、ザイリョウ」
「……大本を辿れば体の一部ってことになるのかな?」
「……タブン。セツメイ、ジョウズ、デキル、ナイ。ゴメンナサイ」
マリアには姿は見えなくても、声の調子からベルが落ち込んでいるのがよくわかった。
「……気にしないで良いよ。言葉なんて少しずつ覚えていけば良いんだから」
励ましの言葉を必死に探したが、そんなありきたりな言葉しか出てこなかった。
「……ゴメンナサイ」
「そこはありがとうって言うところだよ」
「……アリガトウ」
「どういたしまして」
マリアはいつの間にか微笑んでいた。
「……結局ベルの服って、ベルが作った糸から作らなきゃダメなの?」
「ソレ、タブン、ナイ、オモウ。ザイリョウ、ホカ、ナイ」
「……ってことは、私が普通の布から作っても大丈夫なのかな?」
「……タブン、ダイジョウブ」
「……じゃあ私がベルの服を作っても良い?」
「マリア、フク、ツクル、スル?ウレシイ!?」
ベルはマリアの頭の上で飛び跳ねて喜んだ。
「ちょっ、ベル。髪の毛がぐしゃぐしゃになるからやめて」
「……ゴメンナサイ」
そんな話をしている間に2人は商業区まで来ていた。
「じゃあまずはベルの服を作る布を買おうか?」
マリアの頭の中にはベルに着せたい服のデザインがいくつも浮かんでいた。
時刻はまだ昼過ぎ。依頼によっては1つぐらい余裕でこなせる時間だが、今さらギルドに戻る選択肢はマリアにはなかった。
「ウン!」
ベルはマリアのローブのフードから顔を覗かせると、いそいそと小さな手と、どこからか出てきた蔓を器用に使ってマリアの頭をよじ登った。
「……そこが気に入ったの?」
「ウン!トオク、ミル、デキル」
「……まぁ気に入ったのなら良いけど、髪の毛は引っ張らないでよ。さっき強く引っ張ったでしょ。痛かったんだからね」
「ゴメンナサイ」
マリアはもうベルが目立つことは気にしなかった。王族が陰で動いてくれるんだから、今さら目立ったところで関係がないと思っていた。むしろあの面倒くさいベルジュラック公爵家の人間を早く釣れて好都合だとも。裏でラーナの目から涙が零れ落ちそうになっていることなど、露ほどにも思っていなかった。
「……なんで自分から目立つことを」
いつの世も一番苦労しているのは影の功労者たちなのかもしれない。
◇◆◇
「あれ?そう言えばベルの服ってどうなってるの?体の一部?」
今になってマリアはベルの服に興味を示した。
「……ジブン、イト、ツクル。コレ、ワタシ、ジブン、ツクル、シタ」
「?自分で糸から作ってるの?」
ベルのたどたどしい説明をなんとか理解しようとしたが、首を傾げることになった。
「ソウ。イト、ワタシ、ツル、ザイリョウ」
「……大本を辿れば体の一部ってことになるのかな?」
「……タブン。セツメイ、ジョウズ、デキル、ナイ。ゴメンナサイ」
マリアには姿は見えなくても、声の調子からベルが落ち込んでいるのがよくわかった。
「……気にしないで良いよ。言葉なんて少しずつ覚えていけば良いんだから」
励ましの言葉を必死に探したが、そんなありきたりな言葉しか出てこなかった。
「……ゴメンナサイ」
「そこはありがとうって言うところだよ」
「……アリガトウ」
「どういたしまして」
マリアはいつの間にか微笑んでいた。
「……結局ベルの服って、ベルが作った糸から作らなきゃダメなの?」
「ソレ、タブン、ナイ、オモウ。ザイリョウ、ホカ、ナイ」
「……ってことは、私が普通の布から作っても大丈夫なのかな?」
「……タブン、ダイジョウブ」
「……じゃあ私がベルの服を作っても良い?」
「マリア、フク、ツクル、スル?ウレシイ!?」
ベルはマリアの頭の上で飛び跳ねて喜んだ。
「ちょっ、ベル。髪の毛がぐしゃぐしゃになるからやめて」
「……ゴメンナサイ」
そんな話をしている間に2人は商業区まで来ていた。
「じゃあまずはベルの服を作る布を買おうか?」
マリアの頭の中にはベルに着せたい服のデザインがいくつも浮かんでいた。
0
お気に入りに追加
856
あなたにおすすめの小説
側妃に追放された王太子
基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」
正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。
そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。
王の代理が側妃など異例の出来事だ。
「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」
王太子は息を吐いた。
「それが国のためなら」
貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。
無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。
公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)
音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。
魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。
だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。
見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。
「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
王女の夢見た世界への旅路
ライ
ファンタジー
侍女を助けるために幼い王女は、己が全てをかけて回復魔術を使用した。
無茶な魔術の使用による代償で魔力の成長が阻害されるが、代わりに前世の記憶を思い出す。
王族でありながら貴族の中でも少ない魔力しか持てず、王族の中で孤立した王女は、理想と夢をかなえるために行動を起こしていく。
これは、彼女が夢と理想を求めて自由に生きる旅路の物語。
※小説家になろう様にも投稿しています。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
婚約破棄されたので、論破して旅に出させて頂きます!
桜アリス
ファンタジー
婚約破棄された公爵令嬢。
令嬢の名はローザリン・ダリア・フォールトア。
婚約破棄をした男は、この国の第一王子である、アレクサンドル・ピアニー・サラティア。
なんでも好きな人ができ、その人を私がいじめたのだという。
はぁ?何をふざけたことをおっしゃられますの?
たたき潰してさしあげますわ!
そして、その後は冒険者になっていろんな国へ旅に出させて頂きます!
※恋愛要素、ざまぁ?、冒険要素あります。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
文章力が、無いのでくどくて、おかしいところが多いかもしれません( ̄▽ ̄;)
ご注意ください。m(_ _)m
嵌められ勇者のRedo LifeⅡ
綾部 響
ファンタジー
守銭奴な仲間の思惑によって、「上級冒険者」であり「元勇者」であったアレックスは本人さえ忘れていた「記録」の奇跡により15年前まで飛ばされてしまう。
その不遇とそれまでの功績を加味して、女神フェスティーナはそんな彼にそれまで使用していた「魔法袋」と「スキル ファクルタース」を与えた。
若干15歳の駆け出し冒険者まで戻ってしまったアレックスは、与えられた「スキル ファクルタース」を使って仲間を探そうと考えるも、彼に付与されたのは実は「スキル ファタリテート」であった。
他人の「宿命」や「運命」を覗き見れてしまうこのスキルのために、アレックスは図らずも出会った少女たちの「運命」を見てしまい、結果として助ける事となる。
更には以前の仲間たちと戦う事となったり、前世でも知り得なかった「魔神族」との戦いに巻き込まれたりと、アレックスは以前とと全く違う人生を歩む羽目になった。
自分の「運命」すらままならず、他人の「宿命」に振り回される「元勇者」アレックスのやり直し人生を、是非ご覧ください!
※この物語には、キャッキャウフフにイヤーンな展開はありません。……多分。
※この作品はカクヨム、エブリスタ、ノベルアッププラス、小説家になろうにも掲載しております。
※コンテストの応募等で、作品の公開を取り下げる可能性があります。ご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる