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第七章 それぞれの過ごす日々
アルフォードの1日
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時は少し戻る。マリアがギルドでキレていた頃アルフォード──第四王子アルデヒドは国王と話していた。……ただし2人とも向き合ってはいるが、目の前に書類の山がいくつも積まれ、それを片付けながらだが。
「……また随分と仕事が溜まっていますね」
「そのようなことを言うでない。これでも頑張ったのだ」
国王は深く深く溜息を吐いた。
「……こう忙しいのもどこぞの誰かがしばらく王都から離れると言っておきながら、王都を出る直前に仕事を増やすからだぞ?」
国王は恨めしそうにアルデヒドを睨んだ。この際にも手は止めない。
「……誰ですか?仕事を押し付けるなんて、酷い人もいますね」
「……よく言う。押し付けたのはお前だろうに」
「えっ?違いますよ。確かに手紙は送りましたが、王都の門を出た後なので、王都の外です。どっかの誰かさんは僕ではないですよ」
「……そういうことにしておくか」
国王は手元の書類に再び目を落とした。
「……それで首尾は?」
「……レオポルド男爵家は当主は強制的に据替、今は三男のべレッツが当主だ」
「……例のあの家は?」
「……関与していた可能性は高いが、証拠がなくそのまま放置だ」
悔しいのか国王のペンを握る力が強くなり、ミシミシと音を立てている。
「ペンが壊れます。……あの家が関わっていたことがはっきりとすれば、話は早いんですけどね」
「まったくだ。……ローズマリー叔母上がなぜ王家を出奔したか知っているか?」
「?さぁ?……そういえばある日突然置手紙を残して消えたとしか聞いていませんね」
アルデヒドはブルメルの街の錬金術師兼マジックアイテム屋の老女──フェジーの話を思い出していた。ただそれは憶測が混じった話。どこまでが本当のことかははっきりしない。
「……昔王家専属の錬金術師の工房が王城にあったことは知っているか?」
「……はい。以前どなたからか聞きました」
「……それならば話が早い。その者たちは宮廷錬金術師と呼ばれていた。今ではそのような役職はないがな。当時の宮廷錬金術師たちの行いに激怒した叔母上が取り潰したと聞いている」
「……それも以前聞いた覚えがあります」
なにせその事件の一端を握る当事者から聞いたのだ。それに関してアルデヒドが知っていることはほとんど間違いはないと言っても良いだろう。本人の主観が入っているので確実とは言えないが。
「……そうか。当時叔母上のお気に入りの錬金術師がいたらしい。詳細ははっきりしないがな。なんでもその錬金術師を他の錬金術師たちがいじめて城から追い出したらしい」
「それはまた……。ですがそれが今回のことと何か関係が?」
国王は気まずそうに目を泳がせた。
「……それがな、この話には続きがあるのだ」
「どのような?」
アルデヒドはすでに知っていることを質問することが面倒だった。だが質問をしなければ話が進まないことはよく知っていた。
「……王都を離れたその錬金術師に、あの家の者たちがちょっかいをかけたらしい。幸い叔母上が駆けつけたので何もなかったが、後一歩遅ければ殺されるところだったそうだ。それがもとで出奔したようだ。問題の貴族はなんでも現当主だとか」
「……もう面倒臭いからそれを理由に取り潰したい、と?」
アルデヒドは国王の性格をよく理解していた。
「よくわかっているではないか。話が早くて助かる。……もう面倒だから一度捕まえて徹底的に家宅捜索もする。もうそれしか方法はない」
「……確かにその通りだとは思いますが、貴族を──腐っても公爵家の者を捕まえる理由には弱くありませんか?大叔母様が出奔なさったのって、もう数十年も前の話ですよね?」
「……そうだな」
国王は肩を落とすと、話を逸らすように目の前の仕事に集中し始めた。
☆★☆★☆
今回からはアルフォード編です。今回の章では男爵家のアルフォードではなく、第四王子のアルデヒドということで登場になります。
「……また随分と仕事が溜まっていますね」
「そのようなことを言うでない。これでも頑張ったのだ」
国王は深く深く溜息を吐いた。
「……こう忙しいのもどこぞの誰かがしばらく王都から離れると言っておきながら、王都を出る直前に仕事を増やすからだぞ?」
国王は恨めしそうにアルデヒドを睨んだ。この際にも手は止めない。
「……誰ですか?仕事を押し付けるなんて、酷い人もいますね」
「……よく言う。押し付けたのはお前だろうに」
「えっ?違いますよ。確かに手紙は送りましたが、王都の門を出た後なので、王都の外です。どっかの誰かさんは僕ではないですよ」
「……そういうことにしておくか」
国王は手元の書類に再び目を落とした。
「……それで首尾は?」
「……レオポルド男爵家は当主は強制的に据替、今は三男のべレッツが当主だ」
「……例のあの家は?」
「……関与していた可能性は高いが、証拠がなくそのまま放置だ」
悔しいのか国王のペンを握る力が強くなり、ミシミシと音を立てている。
「ペンが壊れます。……あの家が関わっていたことがはっきりとすれば、話は早いんですけどね」
「まったくだ。……ローズマリー叔母上がなぜ王家を出奔したか知っているか?」
「?さぁ?……そういえばある日突然置手紙を残して消えたとしか聞いていませんね」
アルデヒドはブルメルの街の錬金術師兼マジックアイテム屋の老女──フェジーの話を思い出していた。ただそれは憶測が混じった話。どこまでが本当のことかははっきりしない。
「……昔王家専属の錬金術師の工房が王城にあったことは知っているか?」
「……はい。以前どなたからか聞きました」
「……それならば話が早い。その者たちは宮廷錬金術師と呼ばれていた。今ではそのような役職はないがな。当時の宮廷錬金術師たちの行いに激怒した叔母上が取り潰したと聞いている」
「……それも以前聞いた覚えがあります」
なにせその事件の一端を握る当事者から聞いたのだ。それに関してアルデヒドが知っていることはほとんど間違いはないと言っても良いだろう。本人の主観が入っているので確実とは言えないが。
「……そうか。当時叔母上のお気に入りの錬金術師がいたらしい。詳細ははっきりしないがな。なんでもその錬金術師を他の錬金術師たちがいじめて城から追い出したらしい」
「それはまた……。ですがそれが今回のことと何か関係が?」
国王は気まずそうに目を泳がせた。
「……それがな、この話には続きがあるのだ」
「どのような?」
アルデヒドはすでに知っていることを質問することが面倒だった。だが質問をしなければ話が進まないことはよく知っていた。
「……王都を離れたその錬金術師に、あの家の者たちがちょっかいをかけたらしい。幸い叔母上が駆けつけたので何もなかったが、後一歩遅ければ殺されるところだったそうだ。それがもとで出奔したようだ。問題の貴族はなんでも現当主だとか」
「……もう面倒臭いからそれを理由に取り潰したい、と?」
アルデヒドは国王の性格をよく理解していた。
「よくわかっているではないか。話が早くて助かる。……もう面倒だから一度捕まえて徹底的に家宅捜索もする。もうそれしか方法はない」
「……確かにその通りだとは思いますが、貴族を──腐っても公爵家の者を捕まえる理由には弱くありませんか?大叔母様が出奔なさったのって、もう数十年も前の話ですよね?」
「……そうだな」
国王は肩を落とすと、話を逸らすように目の前の仕事に集中し始めた。
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今回からはアルフォード編です。今回の章では男爵家のアルフォードではなく、第四王子のアルデヒドということで登場になります。
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