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第六章 王都への帰路

フェジーの過去(3)

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 私はその場で辞めることを選択した。何を言っても無駄だってことはわかっていた。

「だけど今やっている仕事は最後までやらせて。ローズマリー様には辞めることを伝えなくちゃいけないし丁度良いでしょ?」
「駄目だ。今すぐ出ていけ」

 考える素振りさえも見せずに即答された。

「……請けたばかりの、それも数日で終わるような仕事を放り出していったら不自然じゃない?……どう思われるかしらね」
「……わかった。3日だ。それ以上は待てない」

 少し脅してみれば3日という猶予を勝ち取ることができた。正直言って時間はギリギリだが仕方ない。精々先輩たちには素敵な置き土産を残していってあげようと、心に決めた。

 それからの3日間、私はがむしゃらに働いた。昼間は工房でローズマリー様の最後の注文のブローチを作り、夜は先輩たちにバレないよう昔の常連さんたちと会った。

 そして約束の3日目、何も知られていないローズマリー様はいつものように工房にいらっしゃった。

「相変わらずフェジーは凄いわね。私のイメージ通りだわ」

 はしゃいでおられるローズマリー様の笑顔と、光を反射する薄紅色の髪を見ていると、心が軽くなったような気がした。

「……ありがとうございます」

 その言葉は素直に口に出てきた。
 ローズマリー様はキョトンとした顔をされた後で優し気に微笑まれた。

「……本日はお伝えしたいことが御座いまして……」
「……何かしら?」

 部屋の空気が張りつめた。

「……私、今日でここを辞めるんです」
「っ!?なんで!?」
「……昔の常連さんたち、時に高ランク冒険者の方たちから戻ってきて欲しいと言われまして……。昔お世話になった方で断り辛いんですよ」

 これは半分本当の話。……断り辛いと言っても実際には断ってきたが……。

「王女様には大変お世話になりました。よろしければまた店に来てくださいね」

 きちんと笑えたかは自身がない。ただローズマリー様は何も言わなかった。

 その翌日、私は王都を、生まれ育った街を発った。先輩たちが……いや、元先輩たちが私に横領の罪を着せるような、そんな嫌な予感がしたからだった。

「……ローズマリー様、ごめんなさい」

 おそらくもう二度と会う機会など無いであろう王女様に、誰にも聞こえないほど小さな声で謝った。
 優しい彼女は私のことを心から心配してくれるだろう。私の行方を調べるかもしれない。常連さんたちとも話すかもしれない。その時に高ランク冒険者の人に託してきた手紙を受け取るだろう。そこには全てのことの真相が書かれている。それをどうするのか、決めるのは彼女自身だ。
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