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第六章 王都への帰路
マリアのパン作り
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夕方、6人はブルメルの街の中堅の宿の1つ、《水月》に集まっていた。
「マリア、頼まれていた食材買っておいたぞ」
「ありがとう。予算内で納まった?」
「ああ、大銀貨1枚余ったぞ」
宿《水月》の売り。それは万全な警備でも美味しい料理でもなかった。全室キッチン完備。それが売りだった。そのためか女性客が多く、自然と荒くれ者も少ない。
「そっちはどうだった……って訊くまでもないな」
「うん」
リオナの髪は二つに分けられ、買ったばかりのリボンでツインテールにされていた。リボンは様々な濃さの紫色のギンガムチェック、そのふちは葡萄色のレースが飾っていた。
マリアも前までの組み紐ではなく、花の透かし模様が入った淡い水色のリボンをしていた。
「……全員買ったんだな」
「そうだよ。せっかくだしね」
その言葉通り、エリザベートの髪も紅いレースリボンで結ばれていた。
「そんなことより、時間もないし始めるよ」
この宿を選んだのは、皆の料理技術を向上させるためだった。
「とりあえず時間がかかっても良いから、野菜を切っていって。アヌアンはみじん切り、キィラッタはいちょう切りで。リオは皆に見本を見せてあげて」
これは旅の間の料理のストックも兼ねていた。
マリアはそれを横目で見ながらパンを捏ね始めた。
「フフフ、好きなだけパンを焼くのが夢だったんだ」
嬉しそうに笑いながら次々と捏ねていき、気づけば大量のパン生地があった。
「戦闘じゃまだ役に立たないけど……『川の如く流れゆく時よ、汝は激流の如く流れよ《時空制御》』」
上機嫌で中級魔術を操るマリアに、皆手を止めて目を見開いた。
「……範囲が狭いけど、確かあれ中級だったよな?」
「普通料理に使うものなのか?」
「まぁマリアだしね」
「今更じゃないか?」
「考えても無駄だと思う……」
5人は顔を見合わせると、再び手を動かした。
「フフ~ン、これはローゼンを入れて、こっちはケレムを入れてっと。あっ、バター入りのも作ろう」
マリアはどこまでもマイペースにパン作りを続けた。
「あっ、窯に火を入れないと『《ファイア》』」
慌てて火を入れる。その際薪もないのに燃え続ける火に、皆が揃って溜息を吐いたのは言うまでもない。
「マリア、頼まれていた食材買っておいたぞ」
「ありがとう。予算内で納まった?」
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宿《水月》の売り。それは万全な警備でも美味しい料理でもなかった。全室キッチン完備。それが売りだった。そのためか女性客が多く、自然と荒くれ者も少ない。
「そっちはどうだった……って訊くまでもないな」
「うん」
リオナの髪は二つに分けられ、買ったばかりのリボンでツインテールにされていた。リボンは様々な濃さの紫色のギンガムチェック、そのふちは葡萄色のレースが飾っていた。
マリアも前までの組み紐ではなく、花の透かし模様が入った淡い水色のリボンをしていた。
「……全員買ったんだな」
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その言葉通り、エリザベートの髪も紅いレースリボンで結ばれていた。
「そんなことより、時間もないし始めるよ」
この宿を選んだのは、皆の料理技術を向上させるためだった。
「とりあえず時間がかかっても良いから、野菜を切っていって。アヌアンはみじん切り、キィラッタはいちょう切りで。リオは皆に見本を見せてあげて」
これは旅の間の料理のストックも兼ねていた。
マリアはそれを横目で見ながらパンを捏ね始めた。
「フフフ、好きなだけパンを焼くのが夢だったんだ」
嬉しそうに笑いながら次々と捏ねていき、気づけば大量のパン生地があった。
「戦闘じゃまだ役に立たないけど……『川の如く流れゆく時よ、汝は激流の如く流れよ《時空制御》』」
上機嫌で中級魔術を操るマリアに、皆手を止めて目を見開いた。
「……範囲が狭いけど、確かあれ中級だったよな?」
「普通料理に使うものなのか?」
「まぁマリアだしね」
「今更じゃないか?」
「考えても無駄だと思う……」
5人は顔を見合わせると、再び手を動かした。
「フフ~ン、これはローゼンを入れて、こっちはケレムを入れてっと。あっ、バター入りのも作ろう」
マリアはどこまでもマイペースにパン作りを続けた。
「あっ、窯に火を入れないと『《ファイア》』」
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