4 / 4
4、暴走王女様
しおりを挟む
サウロンは素早く闖入者──第一王女、リーゼロッタ・フォン・エーデルの前に立ちふさがり、少しでも部屋の中が見えないようにした。アランはマリアを抱きかかえたまま、窓へと必死の形相で全力ダッシュする。
「リーゼロッタ、そなたは何度扉を開けるときは静かに開けるようにと言えばわかるのだ? それ以前に、人がいないのならまだしも、それ以外の際は周りの者に開けさせるようにと言っているはずだが?」
情けないとでも言うようにサウロンは大げさに溜息を吐く。
「そ、その話は後でいくらでも聞きますわ。それよりも今は叔父様ですわっ! そこをどいてくださいっ!」
リーゼロッタは両手でサウロンを押しのけると素早く部屋を見回し、ちょうどアランが窓から外へと飛び出すのを見た。
「叔父様……逃がしはしませんわ」
リーゼロッタは微笑むと、強く地面を蹴り、アランたちの跡を追った。スカートの裾が大きく翻ることを気にする様子も見せない。
1人取り残されたサウロンは再度大きく溜息を吐いた。そして騎士たちの足音が近づいてくる足音に表情を引きしめた。
「……ただちにリーゼロッタを捕らえよ。民の迷惑となる前になんとしてもだ。多少の怪我ぐらいはさせても構わぬ」
静かな怒気をに満ちた国王の指示のもと、騎士たちは迅速にリーゼロッタを捕らえるべく、散っていった。何の説明もなく、第一王女を捕まえる命令が出ていることに疑問を持つ者はいない。
サウロンはそんな騎士たちの姿を窓から眺めながら、2人の無事を色んな意味で祈っていた。
「リーゼロッタも……あの暴走さえなければな……」
一方、リーゼロッタから全力で逃げたアランはすでに王都、それも通行人の多い大通りを駆けていた。
見るからに高価とわかるドレスに身を包んだ10前後に見える少女から鬼気迫る表情で子どもを抱きかかえて逃げる男の姿に、人々は状況を呑み込めず、唖然とした顔でその場に固まっている。
「なんで10年以上前とほぼ外見が変わってねぇんだよっ!?」
「愛の力ですわっ!」
リーゼロッタの言葉はある種の狂気をはらんでいた。
「そんな愛なんていらねえっ!」
このまま大通りを走ってはいずれ追いつかれると判断したのか、アランは適当な路地に飛び込んだ。
「『古の契約に従いて、力を貸し与えよ!』」
そしてリーゼロッタから姿が見えなくなる僅かな時間で、状況を打開すべく動く。
2人の身体は淡い蒼の光に包まれ、アランが強く地面を蹴ると、重力を感じさせない動きで屋根へと飛び上がる。
「伏せろ」
屋根にほとんど音を立てずに着地をするや否や、マリアを下ろす。マリアは言われるがままにアランの横に伏せた。
それに数瞬遅れてリーゼロッタも路地に飛び込んでくるも、アランの姿を見失い、その場で足を止める。
「いったいどこに……」
何かの感が働いたのか、上を見上げるも、2人の姿が見えることはない。
「おかしいですわね?」
リーゼロッタは首を傾げると、小走りで路地の奥へと駆けていった。
「……お父さん、あれ何?」
リーゼロッタが見えなくなると、マリアは肩の力を緩め、ぽつりと呟いた。
「一応この国の第一王女、リーゼロッタだ。そして俺の天敵でもある」
「……あんなのが王女様って、この国大丈夫?」
無意識のうちに仮にも王女をあんなの扱いしていることに気づかない。
「普段は普通なんだよ。ただ、俺が絡むとああなる」
アランもそのことには触れることはしない。
「……捕まったらどうなる?」
「十中八九、監禁されて薬かなんかを盛られるな。あいつはそういうやつだ。その前に兄貴が手を打ってくれるとは思ってはいるけどな」
アランはそう言いながら、マリアの頭に外套のフードを被せた。
「フードを被っておけ。その本は……一度俺が預っていいか?」
「うん」
マリアがサウロンから貰った本を手渡すと、アランはそれを腰のベルトポーチの中へと仕舞った。そして自分も目深にフードを被った。
アランは再度マリアを抱き上げ、先程とは反対側の路地へと身を踊らせた。そして綺麗に着地を決めると、マリアを地面に降ろす。
「んじゃあ、行くか」
「えっ? どこに?」
「どこって、王都観光だ。せっかくここまで来たんだしな」
「……この状況で?」
マリアは呆れたようにアランを見た。
「まさか向こうも普通に観光してるとは思わないだろうしな。それにどうも、マリアが目に入っていなかったみたいだからな。欺くという意味でも有効な手だと思うぞ」
「えっ? 視界には入ってるでしょ?」
「世の中にはな、目には入っていても自分の見たいものしか見えていない、そういう可哀想な人もいるんだ」
マリアはアランから発せられる謎の気迫に、戸惑いがちに頷いた。
「う、うん」
「わかったならいい。じゃあとりあえず洋服屋さんにでも行ってみるか? エルドラントとは結構違っていて面白いぞ」
アランはにこやかだったが、同時に何かを誤魔化しているようでもあった。
「物価もだいぶ違うから、マリアは驚くかもな」
「……そうなんだ」
だがマリアはそのことに気づかない。
「マリアが気に入ったのがあったら言えよ。いくらでも買ってやるからな」
「……うん」
どこまでも自分に甘い父親に、マリアは苦笑いを隠せなかった。
「リーゼロッタ、そなたは何度扉を開けるときは静かに開けるようにと言えばわかるのだ? それ以前に、人がいないのならまだしも、それ以外の際は周りの者に開けさせるようにと言っているはずだが?」
情けないとでも言うようにサウロンは大げさに溜息を吐く。
「そ、その話は後でいくらでも聞きますわ。それよりも今は叔父様ですわっ! そこをどいてくださいっ!」
リーゼロッタは両手でサウロンを押しのけると素早く部屋を見回し、ちょうどアランが窓から外へと飛び出すのを見た。
「叔父様……逃がしはしませんわ」
リーゼロッタは微笑むと、強く地面を蹴り、アランたちの跡を追った。スカートの裾が大きく翻ることを気にする様子も見せない。
1人取り残されたサウロンは再度大きく溜息を吐いた。そして騎士たちの足音が近づいてくる足音に表情を引きしめた。
「……ただちにリーゼロッタを捕らえよ。民の迷惑となる前になんとしてもだ。多少の怪我ぐらいはさせても構わぬ」
静かな怒気をに満ちた国王の指示のもと、騎士たちは迅速にリーゼロッタを捕らえるべく、散っていった。何の説明もなく、第一王女を捕まえる命令が出ていることに疑問を持つ者はいない。
サウロンはそんな騎士たちの姿を窓から眺めながら、2人の無事を色んな意味で祈っていた。
「リーゼロッタも……あの暴走さえなければな……」
一方、リーゼロッタから全力で逃げたアランはすでに王都、それも通行人の多い大通りを駆けていた。
見るからに高価とわかるドレスに身を包んだ10前後に見える少女から鬼気迫る表情で子どもを抱きかかえて逃げる男の姿に、人々は状況を呑み込めず、唖然とした顔でその場に固まっている。
「なんで10年以上前とほぼ外見が変わってねぇんだよっ!?」
「愛の力ですわっ!」
リーゼロッタの言葉はある種の狂気をはらんでいた。
「そんな愛なんていらねえっ!」
このまま大通りを走ってはいずれ追いつかれると判断したのか、アランは適当な路地に飛び込んだ。
「『古の契約に従いて、力を貸し与えよ!』」
そしてリーゼロッタから姿が見えなくなる僅かな時間で、状況を打開すべく動く。
2人の身体は淡い蒼の光に包まれ、アランが強く地面を蹴ると、重力を感じさせない動きで屋根へと飛び上がる。
「伏せろ」
屋根にほとんど音を立てずに着地をするや否や、マリアを下ろす。マリアは言われるがままにアランの横に伏せた。
それに数瞬遅れてリーゼロッタも路地に飛び込んでくるも、アランの姿を見失い、その場で足を止める。
「いったいどこに……」
何かの感が働いたのか、上を見上げるも、2人の姿が見えることはない。
「おかしいですわね?」
リーゼロッタは首を傾げると、小走りで路地の奥へと駆けていった。
「……お父さん、あれ何?」
リーゼロッタが見えなくなると、マリアは肩の力を緩め、ぽつりと呟いた。
「一応この国の第一王女、リーゼロッタだ。そして俺の天敵でもある」
「……あんなのが王女様って、この国大丈夫?」
無意識のうちに仮にも王女をあんなの扱いしていることに気づかない。
「普段は普通なんだよ。ただ、俺が絡むとああなる」
アランもそのことには触れることはしない。
「……捕まったらどうなる?」
「十中八九、監禁されて薬かなんかを盛られるな。あいつはそういうやつだ。その前に兄貴が手を打ってくれるとは思ってはいるけどな」
アランはそう言いながら、マリアの頭に外套のフードを被せた。
「フードを被っておけ。その本は……一度俺が預っていいか?」
「うん」
マリアがサウロンから貰った本を手渡すと、アランはそれを腰のベルトポーチの中へと仕舞った。そして自分も目深にフードを被った。
アランは再度マリアを抱き上げ、先程とは反対側の路地へと身を踊らせた。そして綺麗に着地を決めると、マリアを地面に降ろす。
「んじゃあ、行くか」
「えっ? どこに?」
「どこって、王都観光だ。せっかくここまで来たんだしな」
「……この状況で?」
マリアは呆れたようにアランを見た。
「まさか向こうも普通に観光してるとは思わないだろうしな。それにどうも、マリアが目に入っていなかったみたいだからな。欺くという意味でも有効な手だと思うぞ」
「えっ? 視界には入ってるでしょ?」
「世の中にはな、目には入っていても自分の見たいものしか見えていない、そういう可哀想な人もいるんだ」
マリアはアランから発せられる謎の気迫に、戸惑いがちに頷いた。
「う、うん」
「わかったならいい。じゃあとりあえず洋服屋さんにでも行ってみるか? エルドラントとは結構違っていて面白いぞ」
アランはにこやかだったが、同時に何かを誤魔化しているようでもあった。
「物価もだいぶ違うから、マリアは驚くかもな」
「……そうなんだ」
だがマリアはそのことに気づかない。
「マリアが気に入ったのがあったら言えよ。いくらでも買ってやるからな」
「……うん」
どこまでも自分に甘い父親に、マリアは苦笑いを隠せなかった。
0
お気に入りに追加
14
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!
ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。
なのに突然のパーティークビ宣言!!
確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。
補助魔法師だ。
俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。
足手まといだから今日でパーティーはクビ??
そんな理由認められない!!!
俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな??
分かってるのか?
俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!!
ファンタジー初心者です。
温かい目で見てください(*'▽'*)
一万文字以下の短編の予定です!
貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後
空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。
魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。
そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。
すると、キースの態度が豹変して……?
チュートリアル場所でLv9999になっちゃいました。
ss
ファンタジー
これは、ひょんなことから異世界へと飛ばされた青年の物語である。
高校三年生の竹林 健(たけばやし たける)を含めた地球人100名がなんらかの力により異世界で過ごすことを要求される。
そんな中、安全地帯と呼ばれている最初のリスポーン地点の「チュートリアル場所」で主人公 健はあるスキルによりレベルがMAXまで到達した。
そして、チュートリアル場所で出会った一人の青年 相斗と一緒に異世界へと身を乗り出す。
弱体した異世界を救うために二人は立ち上がる。
※基本的には毎日7時投稿です。作者は気まぐれなのであくまで目安くらいに思ってください。設定はかなりガバガバしようですので、暖かい目で見てくれたら嬉しいです。
※コメントはあんまり見れないかもしれません。ランキングが上がっていたら、報告していただいたら嬉しいです。
Hotランキング 1位
ファンタジーランキング 1位
人気ランキング 2位
100000Pt達成!!
ズボラ通販生活
ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!
【完結】悪役令嬢の断罪現場に居合わせた私が巻き込まれた悲劇
藍生蕗
ファンタジー
悪役令嬢と揶揄される公爵令嬢フィラデラが公の場で断罪……されている。
トリアは会場の端でその様を傍観していたが、何故か急に自分の名前が出てきた事に動揺し、思わず返事をしてしまう。
会場が注目する中、聞かれる事に答える度に場の空気は悪くなって行って……
異世界楽々通販サバイバル
shinko
ファンタジー
最近ハマりだしたソロキャンプ。
近くの山にあるキャンプ場で泊っていたはずの伊田和司 51歳はテントから出た瞬間にとてつもない違和感を感じた。
そう、見上げた空には大きく輝く2つの月。
そして山に居たはずの自分の前に広がっているのはなぜか海。
しばらくボーゼンとしていた和司だったが、軽くストレッチした後にこうつぶやいた。
「ついに俺の番が来たか、ステータスオープン!」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる