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本編

証拠の証拠

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翌日の昼過ぎまで五人は宿で過ごした。
遅い昼食を摂ると、ようやく思い腰を上げた。
ルドルの所へ行く為だ。
馬車に乗り込む四人を確認して、ヤーゴが従者席へ回った。
見送りに出ていた女将と目が合うと、ヤーゴは意味ありげに頷いた。

出発だ。
昨日も通った道である。
昨日の今日で討伐が終わったとはルドルも中々信じないだろう。
そこは仕方が無い。
奴が気の済むまで確認させれば良い。

そう遠くない道程を通り、程なく一行はルドルの住まう首斬り城へと到着した。
前回同様の手順で五人は謁見の間へと通される。

「相変わらず血の匂いがする城だな」

唯桜が呟く。
ビビ子もそれは感じていた。
匂いが解る訳では無かったが、残酷な事が年中行われている事は感じる。
その辺、普通の人間とは違う感覚が鍛えられているのかも知れない。

「また待たせやがったら今度こそぶっ殺してやる」

唯桜が一人ごちる。
ヤーゴが、まあまあとなだめた。
今日は昨日よりも随分早くルドルが現れた。
用件は解っているのだから話は早い。

「お前たちか。昨夜は派手にやってくれたそうだな。……で、首尾はどうだ」

ルドルは玉座に着くなり、ふんぞり返って頬杖をついた。

「私共がこうしてここに居る事で、お分かりになりますでしょう」

ヤーゴが頭を下げる。
ルドルは、ふむと言って五人を見た。

「一人多いな。誰だソイツは」

ルドルはビビ子を見て尋ねた。

「昨夜合流した者ですが、彼女の協力のお陰でリッチを倒す事が出来ました。彼女無しでは不可能だったやも知れません」

ヤーゴが答える。
非常にデリケートな言い回しだ。

「……本当に倒せたのだろうな。どうやって証明する」

そら来たぞ。
ヤーゴは予想通りの展開に、運び込んだ麻の袋を持ち出した。

「証拠はこの中に」

ルドルの前に差し出した。
ルドルは顔をしかめる。
おい誰か確認しろ、とルドルが衛兵に命令した。

衛兵達も互いに顔を見合わせる。
お前が行けとお互いに言い合っていたが、やがて一人の兵士が進み出た。
恐る恐る袋の口を開く。

「バアアアアアンッ!」

唯桜が突然大声で叫んだ。
兵士は驚いてひっくり返り、他の兵士も壁に張り付いた。
ルドルも玉座の上に立ち上がって目を剥いている。

あっはっはっはっはっ。
ゴメンゴメンつい、と言って唯桜が笑う。

「き、貴様、ふふ、ふざけるなあ!」

ルドルが怒鳴った。
そりゃあそうだろう。兵士も恥ずかしそうに咳払いをする。

牛嶋は無表情で前だけ見ているし、美紅は呆れて眉間を押さえていた。
ヤーゴは苦笑いしながら、済みません、彼なりに緊張をほぐそうと思っての事なんですと、場を必死に取りなしていた。

ビビ子は驚いて目を丸くしていた。
この雰囲気でイタズラを仕掛けるなんて。
この人は危ない人なのでは、と不安になった。

「お姉様、この方は……その、危ない方なのでは……?」

ビビ子がヒソヒソと美紅に耳打ちをする。
美紅は思わず噴き出した。

「間違っちゃいないわ。コイツはイカれてるの。だからあんまり関わっちゃ駄目」

美紅がビビ子に答えた。

「誰がイカれてるんだよ。嘘を教えるなよ」

唯桜が美紅に文句を言う。
美紅は完全に無視していた。

気をとり直して衛兵が麻の袋を開く。
中を覗きこんだ兵士は、ひいっ!  と声を上げてまたひっくり返った。

「結局ひっくり返るんじゃねえか」

唯桜が呟く。

ルドルは玉座から降りてきた。
もう騙されないと言わんばかりの勢いだった。

ツカツカと歩み寄り、兵士を退かせる。
そして自らが袋を開けて逆さまにした。
袋の中から、バラバラっと何かが床に落ちた。
ルドルは袋を投げ捨てると、床に落ちたボロ雑巾の様な何かをつまみ上げる。

「うわあっ!」

ルドルは驚いて手にしたボロを離した。
それはリッチのローブと亡骸の一部であった。
あの後ヤーゴは女将に麻の袋を用意してもらい、密かに回収に行ったのである。
何事も証拠が無ければ、折衝を優位に進める事は出来ない。
案の定役に立った。

「これで、ご納得頂けましたでしょうか」

ヤーゴはあくまで低姿勢だ。
唯桜は我慢していたが、まだ笑っている。
細かく肩が震えていた。

「こ、これがリッチだと言う証拠は?」

ルドルが尋ねた。
ヤーゴは、は?  と思わず聞き返す。
証拠?  今ここにある物が証拠ではないか。
証拠の証拠を示せと言う事か。
流石にそれは出来ない。
死体が生きているからこそリッチである。
死体が死んだらそれは死体だ。
ただの死体と化したリッチを、リッチの証明をしろと言われても不可能である。

ルドルは不敵に笑った。
ヤーゴはそうか、それが初めからの魂胆なのかと気が付いた。
端から約束を守る気など無かったのだ。

だが、ヤーゴとて相手が約束を守らない場合も想定している。
何と言っても魔人会の大番頭だ。
転んでもただでは起きない。
必ず対価は戴いていく。
それだけは絶対的な鉄則だ。

ヤーゴはそうですか、と静かに答えた。
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