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本編
男子禁制
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深夜。
宿に戻った五人は突然舞い戻ったにも関わらず、女将の歓迎を受けた。
寝床と食事が用意され、お風呂もいつでもとうぞと進められた。
ビビ子は意外なもてなしに驚いた。
何故こんなにも歓迎されているのか。
女将はまた御贔屓にして下さいまし、と言って部屋を出て行った。
上客の扱いだ。
単に金払いが良いと言うだけなのだろうか。
唯桜は酒の準備が出来ると何故か目を覚ました。
本人曰く、酒の匂いがするらしい。
アンタはコバエか、と美紅は呆れた。
唯桜と牛嶋とヤーゴは酒を飲み始める。
美紅がこっちは放って置けばいいと言って、ビビ子を風呂へと誘った。
ビビ子は迷った。
包帯を取らねばならない。
しかし美紅は自分の素顔は知らないのだ。
大丈夫だろうかと思いながらも、一緒に温泉へと向かった。
温泉で有名なだけはある。
浴場には特に力が入っていた。
広い湯船は岩風呂になっており、源泉掛け流しだ。
海が見える。
夜空は満天の星空だ。
空に月があり、海にも月が映っている。
何とも幻想的だった。
美紅は埃をかぶった身体に湯を流した。
ビビ子は美紅の身体を見た。
同性から見ても、とても綺麗だと思う。
とてもあの様な姿に変わるとは思えなかった。
あの蛇の化身とでも言う様な姿。
まるで噂に聞くメデューサだ。
いやでも、メデューサよりは神々しい感じがしなくも無かった様な気がした。
自分の贔屓目だろうか。
ビビ子はそんな事を思いながら美紅の身体を眺めた。
「なあに。ジロジロ見られたら恥ずかしいじゃない」
美紅がビビ子の視線に気付いて笑った。
ビビ子は慌てて目を逸らす。
「ビビ子ちゃんは包帯取らなくても良いの?」
美紅が尋ねた。
ビビ子は困った。
急に恥ずかしくなったのだ。
顔にある火傷の痕。かなりの大きさだ。
醜いと思われたらどうしよう。
今までそんな事、気にした事も無かったのに。
ビビ子は美紅の女性らしい美しさに、怖じ気づいてしまっていた。
美紅が側による。
ビビ子は焦った。
どどどどどうしようー。
包帯を取るべきか、取らざるべきか。
完全に固まってしまっていた。
美紅は優しくビビ子の包帯を取り始めた。
「恥ずかしいのね。でもキチンと洗っておかないと、バイ菌が入ると治りも良くないわ」
まるで母親の様に優しく語りかける。
ビビ子は大人しく従った。
何故か断れない。
包帯を取るとビビ子の素顔が露になった。
右の頬に大きな火傷の痕がある。
それはほぼ顔の右半分と、左の頬の一部に及んだ。
非常に広範囲である。
美紅がじいっと見ている。
ビビ子は気が気では無かった。
醜いと思われる。嫌だ。
そんな感情が湧きあがる。
「ふふ。可愛い顔をしてるのね。私だけ見ちゃった」
美紅はそう言って、イタズラっぽく笑った。
「あの三人には内緒ね。女同士の秘密よ」
そう言うとビビ子を後ろに向かせた。
美紅がその背中に湯を流した。
「あ、あの……」
ビビ子が声を掛ける。
「わ、私の顔、気持ち悪く無いですか?」
声が震えていた。
「気持ち悪く無いわ」
美紅が答えた。
本当だろうか。ビビ子は不安になった。
「でもこんなオバケみたいな……」
ビビ子は振り返った。
よく見ると顔だけでは無かった。
胸から脇腹に掛けても火傷の痕はあった。
美紅はそれでも気持ち悪いなどとは、一言も言わなかった。
それどころか、ゆっくりと静かに自分の身体を晒した。
胸と腹に数ヶ所、刺傷があった。
「私もね、昔の傷が消えないの。でも生きてるわ。それで良いじゃない」
厳密に言って、生きてると言っても良いのか美紅自身にも解らなかった。
だがそれが、美紅の死生観である。
どんな形かなんて関係無い。
生きているか、死んでいるか。
それが問題だ。
死んだらおしまいである。
成長も無い。復讐も出来ない。
復讐する事も生きるモチベーションになるのなら否定はしない。
美紅自身、そうしてきたのだから。
「だから気にする事無いわ」
そう言って美紅はビビ子を抱き締めた。
ビビ子は嬉しかった。
この人は悪い人なのだろうか。
でも今の私には、この人の抱擁は温かい。
ビビ子は目を閉じて、今は余計な事を考えるのは止めようと思った。
宿に戻った五人は突然舞い戻ったにも関わらず、女将の歓迎を受けた。
寝床と食事が用意され、お風呂もいつでもとうぞと進められた。
ビビ子は意外なもてなしに驚いた。
何故こんなにも歓迎されているのか。
女将はまた御贔屓にして下さいまし、と言って部屋を出て行った。
上客の扱いだ。
単に金払いが良いと言うだけなのだろうか。
唯桜は酒の準備が出来ると何故か目を覚ました。
本人曰く、酒の匂いがするらしい。
アンタはコバエか、と美紅は呆れた。
唯桜と牛嶋とヤーゴは酒を飲み始める。
美紅がこっちは放って置けばいいと言って、ビビ子を風呂へと誘った。
ビビ子は迷った。
包帯を取らねばならない。
しかし美紅は自分の素顔は知らないのだ。
大丈夫だろうかと思いながらも、一緒に温泉へと向かった。
温泉で有名なだけはある。
浴場には特に力が入っていた。
広い湯船は岩風呂になっており、源泉掛け流しだ。
海が見える。
夜空は満天の星空だ。
空に月があり、海にも月が映っている。
何とも幻想的だった。
美紅は埃をかぶった身体に湯を流した。
ビビ子は美紅の身体を見た。
同性から見ても、とても綺麗だと思う。
とてもあの様な姿に変わるとは思えなかった。
あの蛇の化身とでも言う様な姿。
まるで噂に聞くメデューサだ。
いやでも、メデューサよりは神々しい感じがしなくも無かった様な気がした。
自分の贔屓目だろうか。
ビビ子はそんな事を思いながら美紅の身体を眺めた。
「なあに。ジロジロ見られたら恥ずかしいじゃない」
美紅がビビ子の視線に気付いて笑った。
ビビ子は慌てて目を逸らす。
「ビビ子ちゃんは包帯取らなくても良いの?」
美紅が尋ねた。
ビビ子は困った。
急に恥ずかしくなったのだ。
顔にある火傷の痕。かなりの大きさだ。
醜いと思われたらどうしよう。
今までそんな事、気にした事も無かったのに。
ビビ子は美紅の女性らしい美しさに、怖じ気づいてしまっていた。
美紅が側による。
ビビ子は焦った。
どどどどどうしようー。
包帯を取るべきか、取らざるべきか。
完全に固まってしまっていた。
美紅は優しくビビ子の包帯を取り始めた。
「恥ずかしいのね。でもキチンと洗っておかないと、バイ菌が入ると治りも良くないわ」
まるで母親の様に優しく語りかける。
ビビ子は大人しく従った。
何故か断れない。
包帯を取るとビビ子の素顔が露になった。
右の頬に大きな火傷の痕がある。
それはほぼ顔の右半分と、左の頬の一部に及んだ。
非常に広範囲である。
美紅がじいっと見ている。
ビビ子は気が気では無かった。
醜いと思われる。嫌だ。
そんな感情が湧きあがる。
「ふふ。可愛い顔をしてるのね。私だけ見ちゃった」
美紅はそう言って、イタズラっぽく笑った。
「あの三人には内緒ね。女同士の秘密よ」
そう言うとビビ子を後ろに向かせた。
美紅がその背中に湯を流した。
「あ、あの……」
ビビ子が声を掛ける。
「わ、私の顔、気持ち悪く無いですか?」
声が震えていた。
「気持ち悪く無いわ」
美紅が答えた。
本当だろうか。ビビ子は不安になった。
「でもこんなオバケみたいな……」
ビビ子は振り返った。
よく見ると顔だけでは無かった。
胸から脇腹に掛けても火傷の痕はあった。
美紅はそれでも気持ち悪いなどとは、一言も言わなかった。
それどころか、ゆっくりと静かに自分の身体を晒した。
胸と腹に数ヶ所、刺傷があった。
「私もね、昔の傷が消えないの。でも生きてるわ。それで良いじゃない」
厳密に言って、生きてると言っても良いのか美紅自身にも解らなかった。
だがそれが、美紅の死生観である。
どんな形かなんて関係無い。
生きているか、死んでいるか。
それが問題だ。
死んだらおしまいである。
成長も無い。復讐も出来ない。
復讐する事も生きるモチベーションになるのなら否定はしない。
美紅自身、そうしてきたのだから。
「だから気にする事無いわ」
そう言って美紅はビビ子を抱き締めた。
ビビ子は嬉しかった。
この人は悪い人なのだろうか。
でも今の私には、この人の抱擁は温かい。
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